33話:食リポ ページ35
「よし、できたわよ!」
シナ先生と私の分、二つのお盆を持ってきたおばちゃんが、ニカッと笑ってそう言った。
「わぁ、ありがとうございます!」
お出汁香る味噌汁に、ツヤツヤで真っ白なご飯。
ボリューム満点のアジのフライは、揚げたてらしくまだパチパチと音を立てている。
生徒達の食事の時間はとっくに終わっているためすっかり冷めてしまっていただろうに、全てからほかほかと湯気が立っていた。
……わざわざ温め直してくれたんだ。
電子レンジに入れてボタンをピッと押せば簡単に温かい食事が食べられた現代と違って、ここでは火を起こすのも一苦労なはずだ。
おばちゃんの優しさが身に沁みる。
「いただきます」
私は両手を合わせてそっと目を伏せる。
意識せずとも出た、心からの言葉だった。
お箸でフライを切り分け、まずは何もつけずに一口。
「……美味しい」
サクサクの衣を身に纏ったアジが、口の中でほろほろと解れていく。
揚げ物なのに油のしつこさが少なく、アジ本来の味と絶妙にマッチしている。
次に私は小鉢に入った柑橘系の果物に手を伸ばした。
隣でハンバーグ定食を食べているシナ先生のお盆にはないし、フライにかけて食べるためのものと考えて間違いないだろう。
ぎゅっと手で皮を押すと、柑橘類特有の爽やかな香りが鼻をくすぐる。
……あぁ、これもう絶対美味しいやつ〜!
今度はさっきよりも大きめに切って、再びがぶり。
レモンのような果汁が口いっぱいに広がって、油のこってりとした感じが押し流されていく。
後味さっぱりで、自然にもう一口食べられる気がする。
……次はタルタルソースをかけてみようかなぁ……って、あれ?
何故室町時代にタルタルソースなんてものがあるのか、という疑問は全力で無視して新たにもう一口食べようとした時、シナ先生とおばちゃんがこちらをじっと見ていることに気づいた。
「あの、なんでしょうか」
「いいえ、なんでもないのよ」
「ただ、Aちゃんがあんまり美味しそうに食べるものだから」
そんな微笑ましいものを見る目で見ないでください。
ぐわぁぁっと内心羞恥に悶えつつ、私はご飯を一気にかき込む。お行儀だなんて気にしていられない。
再度フライに箸を伸ばしながら、私は明日からの食堂の手伝いはこの美味しいご飯のために誠心誠意取り組もうと誓った。
……あぁ、タルタルおいしい。
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魚月(プロフ) - 小桜さん» わかります!めちゃくちゃあるあるですね!ありがとうございます。参考にさせていただきます! (2022年3月29日 20時) (レス) id: cd436a6c71 (このIDを非表示/違反報告)
小桜(プロフ) - 魚月さん» そうなんです! 私も本大好きなんですよ〜。私の場合は、途中まで読んだ本を栞を挟んだりするんじゃなくて、開いたまま伏せて置くのが許せません! 型が残ってしまうので。……これは結構あるあるなんじゃないかな〜って思ってます! (2022年3月28日 22時) (レス) id: 8b4a915ba2 (このIDを非表示/違反報告)
魚月(プロフ) - (続き)夢主ちゃんを究極の本好きにするため、本好きの友人達から「本好きあるある」を募って書いています。私はこうだな、というのがありましたら、ぜひ教えてくださいね! (2022年3月28日 19時) (レス) id: cd436a6c71 (このIDを非表示/違反報告)
魚月(プロフ) - 小桜さん» コメントありがとうございます! 夢主ちゃんと気が合いそうとは、小桜さんもなかなかの本好きですね。……実は作者もです笑。 (2022年3月28日 19時) (レス) id: cd436a6c71 (このIDを非表示/違反報告)
小桜(プロフ) - ヤバい……夢主ちゃんの言うことめっちゃ分かる……!! この子とは気が合いそうです! とても面白く、続きが楽しみです。更新頑張って下さい! (2022年3月28日 7時) (レス) @page19 id: 8b4a915ba2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:真白 | 作成日時:2022年3月15日 9時