プロローグ ページ2
?side
突然だが、皆は幼い頃…物心つく前の記憶を持っているだろうか。
大半の人が、持っていないだろう。持っていたとしても、断片的にであろう。
俺も、その大半の内の一人…と言いたいところだが、一つだけ、鮮明に覚えていることがある。
恐らくこれは、俺が一歳の頃の記憶だ。
俺は布団の中にいて、母親らしき女性が頭を撫でている。
『淳太はまだかねぇ…。』
「ただいまー!」
『あら、帰ってきたみたいやな。ほな行きましょか。』
そう言って、その女性は俺に黄色の菊を持たせて抱き上げ、“淳太”と呼ばれる少年のもとへ向かう。
「おかん、のん、ただいま!」
『おかえりなさい。』
「あぅ〜!」
俺はおかえりなさいと言おうとするが、まだ言葉が話せないので、声を発するだけ。
そして、栗色の髪をした淳太という少年に抱っこされる。
「のんは今日もかわええなぁ…ん?おかん、この花どないし
たん?」
『綺麗やろ?今日な、町に出たら咲いててん。淳太、菊の花
好きやろ?淳太にあげようと思って。』
「え、ほんまに?ええの?おかん、ありがとう!」
『ええんよ。そんな物しかあげられなくてすまないね。』
「ううん、僕、菊の花大好きやもん!のんもありがと!」
その少年は八重歯を見せて笑い、俺を抱きしめた。
言葉はよく分からなかったが、とても幸せだと感じていた。
しかし、俺が物心ついた頃には、この"淳太"という少年はいなくなっていた。
91人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:百瀬 花楓 | 作成日時:2020年2月29日 20時