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「_____えっと、私は四年生の松田Aです!よろしくね、アイちゃん!」
吉田さんに紹介された彼女の自己紹介を聞いた時、姉からよく聞かされた名前を思い出した。
名前は松田A。小学校高学年で、よく電話をかけてきてくれる女の子。
電話の内容は至って普通の日常で、そのありふれた日常の話を聞くのが日々の楽しみだったと、姉は語っていた。
いつか、私にも会わせたい、と。
「あの子の声を聞くだけで、不思議と笑顔になれるの。あの子は本当に凄い子よ。いつか志保にも会わせたいわ」
そんな約束が二度と叶わぬものとなった日から、私は顔も知らない【松田A】という少女を探し続けた。
けれど結局、組織に拘束されて薬を飲むまで、彼女に出会うことはなかった。
まさか、こんな形で会うことになるとは。
まだ、彼女がお姉ちゃんの言っていた子だと断定はできない。
同姓同名の女の子で、全く無関係の子供だという可能性もある。
……そう、頭ではわかっていた筈なのに。
気づけば体は、彼女を守るようにして動いていて。
「でもね、私一人じゃ、やっぱり帰れないの。ちゃんとみんなが安全にお家に帰れるまでは、私も一緒に居るよ。
だってそれが、お姉ちゃんの役目だもん!」
その言葉を聞いて、やっぱり彼女は姉の言っていた少女で間違いないと思った。
……姉は彼女のことを「私に似てる」なんて言っていたけれど、私からすれば、姉の方にこそ彼女は似ている気がする。
自分の芯を貫く、私にはない強かさが、生前の姉の姿を強く思い起こさせた。
貴方は姉が最後に残した宝。
絶対に、死なせはしない。
「______そういえば、アイちゃんって、漢字ではどう書くの?」
例の偽札の事件から数日後。
小学一年生らしく元気に歩いていく三人分の背中を眺めていれば、隣を歩いていた彼女にそんなことを聞かれる。
純粋な質問なだけに、皮肉だらけの名前を告げるのには少し躊躇いが出た。
「……哀愁の哀。哀しいと書いて、哀よ」
「哀ちゃん?」
空中に漢字を書いてみせる彼女の横顔を眺めていると、突然、目に痛いほどに綺麗な笑顔がこちらに向けられる。
そんなに喜ばれるような名前ではないと思うのだけど。
「______優しい哀ちゃんに、ぴったりのお名前だね!」
……まぁでも、貴方がそう思うなら、そうなのかもしれないわね。
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宮野冬姫(プロフ) - それから、158の絶好の場所というセリフが格好の場所になってます (2022年7月10日 21時) (レス) @page12 id: 09433d1ffe (このIDを非表示/違反報告)
宮野冬姫(プロフ) - 150のパトカーのサイレンですが、ピーポーピーポーは救急車では? (2022年7月10日 21時) (レス) @page4 id: 09433d1ffe (このIDを非表示/違反報告)
朱夢 - とても面白いです‼️いつも楽しく読んでます。寒いですが頑張ってください‼️ (2021年12月10日 16時) (レス) id: af58c4fc49 (このIDを非表示/違反報告)
琉流 - 更新ありがとうございます。しかし本当に警察学校組は若いですよね…。 (2021年12月10日 2時) (レス) @page48 id: 45a1f0a151 (このIDを非表示/違反報告)
とーふ(プロフ) - 更新ありがとうございます!研二くんとじんぺーちゃん、警察学校組の皆と話している夢主ちゃん可愛い!記憶に残ってないのは悲しいですけどね…これからも更新頑張ってください! (2021年12月9日 18時) (レス) @page48 id: a9336fcc7d (このIDを非表示/違反報告)
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