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「……気づいたら、貴方に電話を掛けてたの。どうしても、今日会いたくて」
悲しそうに目を伏せた雅美お姉さんを見て、なんとなく、カレーを食べていた手を止める。
どうしても、今日、会いたくて。
今日に一体、どんな意味があるんだろう。
いろんなことを聞きたい気持ちと、聞いていいのか分からず躊躇う気持ちに挟まれて、肝心の声が出せない。
そうこうしているうちに、雅美お姉さんは「こんなこと急に言われても困るわよね」と言って、話題を逸らしてしまった。
悲しげな表情を見上げることしか出来ない私に、曖昧に笑ってみせるお姉さん。
なんでもないと言いたげな表情だけど、全然、なんでも無くなさそうだよ。雅美お姉さん。
「あ、そうだわ。実は今日、Aちゃんにプレゼントしたい物があったの」
「プレゼント?」
でも、まだ私の誕生日まで、時間があるような……?
プレゼントをもらう心当たりがなくて、首をひねる。
隣に居る研二くんも思い当たる節はなさそう。
すると雅美お姉さんは一旦お店を出て行って、それからすぐに、車から少し大きめの紙袋を手に戻ってきた。
それは車に乗ってすぐの時、研二くんが「なんだろね、あの袋」って言ってた紙袋で。
その中から出てきたのは、
「……クマ、さん」
「Aちゃんにはちょっと子供向けすぎたかしら」
___抱きしめるのに丁度いいサイズの、ふわふわなクマさんだった。
首に巻かれたスカーフは海みたいな青色で、お目目はくりっとしてて、にっこりと笑ってる。
……か、可愛い……!
「……って、思ったけど、その様子だと気に入ってくれたみたいね」
「く、くまさ、とってもかわいい……っ!」
どうしてこれをプレゼントしてくれたのかは分からないけれど、この時の私は深く考えずに、雅美お姉さんがくれたクマさんをぎゅうっと強く抱きしめた。
抱きしめて気づいたことといえば、クマさんの背中にはチャックがあるみたい。
使わないから開けてないけど。
「どうかヒロくん…………いえ、緑川さんによろしくね、Aちゃん」
「……雅美おねーさんはヒロくんに会わないの?」
「……全てが終わったら会いに行くわ。その時は、また三人でここに来ましょ?」
「うん!青いカレー見せて、ヒロくんびっくりさせようね!」
「そうね、ビックリさせちゃおっか」
___本当はこの時、私は気づかなきゃいけなかったんだ。
全てが終わったらに隠された、言葉の意味に。
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宮野冬姫(プロフ) - それから、158の絶好の場所というセリフが格好の場所になってます (2022年7月10日 21時) (レス) @page12 id: 09433d1ffe (このIDを非表示/違反報告)
宮野冬姫(プロフ) - 150のパトカーのサイレンですが、ピーポーピーポーは救急車では? (2022年7月10日 21時) (レス) @page4 id: 09433d1ffe (このIDを非表示/違反報告)
朱夢 - とても面白いです‼️いつも楽しく読んでます。寒いですが頑張ってください‼️ (2021年12月10日 16時) (レス) id: af58c4fc49 (このIDを非表示/違反報告)
琉流 - 更新ありがとうございます。しかし本当に警察学校組は若いですよね…。 (2021年12月10日 2時) (レス) @page48 id: 45a1f0a151 (このIDを非表示/違反報告)
とーふ(プロフ) - 更新ありがとうございます!研二くんとじんぺーちゃん、警察学校組の皆と話している夢主ちゃん可愛い!記憶に残ってないのは悲しいですけどね…これからも更新頑張ってください! (2021年12月9日 18時) (レス) @page48 id: a9336fcc7d (このIDを非表示/違反報告)
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