038 ページ39
.
「お前、まさか……」
「んー?」
見上げた先では、俺に肩車をされたAが首を傾げている。
この様子だと、こいつは気づいていないのか。
言っていて可笑しいなと、微塵も疑問に思わないのか。
自分のその能力が普通とかけ離れていることに。
思えば気になる点はいくつかあった。
いくらハギが隣に居るとはいえ、あんなにも完璧にセリフを再現できるものだろうか。
普通、人間というのは長文を聞きながら重要な部分を掻い摘んで、大まかな内容を理解するものだ。
それなのにこいつは、いつだって完璧にハギの言葉を俺に伝えてきて、口調さえ完全に一緒で。
……まさかずっと、あの一瞬で全部を記憶して、俺に伝えてきていたのか?
「……なぁ、A。お前、いっつもどうやって記憶してる?」
「きおく……?」
思い返すとこいつが言った内容で、事実でないことは一度もなかった。
あるとしたら俺の名前を「まつしたじんのすけ」と覚えていたことくらいだが、一度名前と漢字を教えただけで、Aはすらすらと書けるようになってしまった。
その時点でもっと疑問を持つべきだっただろうか。
時々見るハギの絵がやたら似ているのも、もしかして。
「______よく分かんないけど、一回見たら全部おぼえられるよ?」
やはり、そういうことだ。
こいつは周りが気づいていないだけで、一つ他人とズレた能力を持ってる。
そして恐らく、それは。
___瞬間記憶能力。
よくあれば便利だと羨ましがられる能力だが、実際は良いことばかりではない。
一度見たものを忘れないということは、いつまでだってその記憶を保持したままだということで。
___『……パパはね、いないよ』
つまり、何年の月日が経とうと、彼女たちには、心に入った傷が真新しく鮮明に思い出せるということだ。
それがいかに辛いことなのか。
一度崩れ落ちそうなほどの絶望に直面したからこそよく分かる。
あんな感情は二度と体験したくないと、大人の俺ですら思うのだから。
「全部、覚えてんのか」
「うん」
「……父親の、ことも」
三歳の時の記憶など普通なら残っていないはずだ。
けれどAは俺の問いに呆気なく頷き、目を伏せて。
そして、幼いその顔に、子どものものとは思えない悲しげな笑みを浮かべる。
「…………全部ね、わすれられないの」
忘れたいことも、全部。
.
2003人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
宮野冬姫(プロフ) - 本当ですか!ありがとうございます!! (2022年7月10日 13時) (レス) id: 09433d1ffe (このIDを非表示/違反報告)
無糖(プロフ) - 宮野冬姫さん» 分かりました!変更しても物語には影響がないので、水銀レバーに変えておきます! (2022年7月10日 9時) (レス) id: 24145c4343 (このIDを非表示/違反報告)
宮野冬姫(プロフ) - そうなんですか!でも、松田は水銀レバーと言っていたので個人的はコナン世界に合わせてほしいです。生意気なこと言ってすみません (2022年7月10日 9時) (レス) id: 09433d1ffe (このIDを非表示/違反報告)
無糖(プロフ) - 宮野冬姫さん» コメントありがとうございます!ご指摘に関してですが、現実世界だと水銀レバーではなく水銀スイッチというらしくて、間違いではないです!多分無駄にリアリティーを追求してしまったんでしょうね(笑)ご指摘ありがとうございます! (2022年7月10日 9時) (レス) @page29 id: 24145c4343 (このIDを非表示/違反報告)
宮野冬姫(プロフ) - 028の爆弾のお話、水銀スイッチではなく水銀レバーですよ!! (2022年7月9日 23時) (レス) @page29 id: 09433d1ffe (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:無糖 | 作成日時:2021年6月13日 18時