7話 ページ9
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理由はわからない。
ただ、火が苦手だった。
ただひたすらに殺していた頃、燃え盛る焚き火を見て喉がヒリついた。
鬼に聞けば笑われたのを覚えている。お前は動物か、と。
だから、あの赤く美しくとも危険で飲み込まれそうに思う火が苦手なのは覚えてもいない人間だった頃の記憶なのだろう。
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腹が掻き回される感覚に沈んでいた意識が浮上する。
まぶたが重い。酷く疲弊している。上昇する意識とは逆に体の調子は降下していた。
やっとの事で目を開けると明るかった。
普段見る天井が目線の先にあり、やはり死んではいなかった。
体を起こすと、首が痺れた。
『っ……』
念入りに包帯を巻かれるのははじめての経験だ。
包帯越しに切り傷を触ると、鳥肌が立つ感触がした。
布団の足元に少年が横たわって、死んだように寝入っている。
「一晩中君に付きっきりだった。寝てしまったのはさっきだ」
明朗快活とした声に私は肩を揺らす。
急いで縁側へと視線を送ると、鬼殺隊の男が座っていた。
「体の調子はどうだ?と言ってもここまで痛めつけたのは俺なんだが」
責めるつもりも、激怒するつもりも全くなかった。
彼がした事は仕事で当然行うべき行為だ。
『あまりいつもと変わりません。あと気になさらずに、あなたは
枕元に置かれた桶の水は赤く濁っている。
『でも、あなたの方こそどうなんです?これは立派な規律違反。私を殺さなくてもいいの?』
「君は真っ当なことを言う鬼だな!」
瞳はまるで燃えている。揺らめく炎だ。
男は私を強く見つめた。
「少年に散々君は悪い鬼ではない、というくだりを聞かされた。
だが、君は殺さなくてはならない」
そう真っ直ぐと返された。
それは強い信念と誇りのように見えた。
私は思わず目を逸らしてしまう。この人は酷く眩しい。
着せ替えられた着物の襟を私は正す。布団から抜け出して、日を浴びない場所で指をついた。
『お願いがあります……あの子に良い里親が見つかるまででいい……!』
頭を垂れた。
『どうか私を殺さないで……!!!』
私の望みはそれで潰える。
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おもち - 赤い花白い花の歌詞が入っていてとても惹き込まれましたー!とても素敵です!!! (2020年3月24日 21時) (レス) id: 2fd70573e8 (このIDを非表示/違反報告)
茄子(プロフ) - 小説も挿絵も何もかもがとても素敵でした……素晴らしい作品をありがとうございます…… (2020年1月25日 23時) (レス) id: 58113d68f6 (このIDを非表示/違反報告)
モルス(プロフ) - 涙が止まりません……こんな素晴らしい作品をどうもありがとう…… (2019年12月2日 14時) (レス) id: d7cc26133c (このIDを非表示/違反報告)
愛郎素(プロフ) - 香坂さん» 語彙力が!高い!!よもやよもやです……本当に書いていてよかったと感じました!これからも頑張ります! (2019年10月12日 14時) (レス) id: 56f98660a0 (このIDを非表示/違反報告)
香坂 - 言葉使いや書き方、表現に引き込まれました。一つの本を読み終えた時のような気持ちになり、とても良い作品だと心から思いました。このお話が読めてよかったです。 (2019年9月18日 17時) (レス) id: c6f322a1f4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:愛朗素 | 作成日時:2019年8月30日 21時