44話 ページ46
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______咲き乱れる藤の花。
煉獄さんの死を未だ、俺達は引きづっている。
千寿郎君から鍔を貰った後に煉獄さんの鎹烏が俺をその山に導いた。
腹の傷が痛む……っ。頭が割れるように痛む……っ。
頭上高く飛ぶ鎹烏に体中の痛みを耐えて、山を登る。
奥に進むに連れて藤の匂いが潤沢に強くなる。藤襲山より藤の匂いが強い……!
寝ているはずの禰豆子も背負い箱の戸をカリカリと引っ掻いた。
ごめん、禰豆子っ我慢してくれっ。
更に奥地へ。
ひと房を掻き分けると、開けた場所に出た。
美しい場所で寂しく家がひとつ建っている。
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そこに居たのは、ひどく綺麗な女の人だった。
鬼のような人のような……混ざった不思議な匂い。
煉獄さんから感じた微かな匂い……彼女から感じる微かな煉獄さんの匂い。
菊の簪を彼女に見せると、彼女は燃えるような匂いを発する。
俺は、その匂いをグッと堪え、言わなければならない事を告げた。
煉獄杏寿郎は_______死んだ、と。
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彼女から一気に怒りの匂いが腐食して、一瞬感情の匂いが消えた。
そして、彼女は…………
立ち上った、彼女ひとりでは抱えきれない大きな悲しみの匂い。
男の人が、女性に簪を贈る理由は、疎い俺でも特別な意味があると知っていた。
声も上げずに彼女は泣いた。
震える手の爪は確かに鋭利で、俺の手から簪を持ち上げると赤い菊を見て愛おしそうに簪を頬に寄せた。
なんだか、煉獄さんの事を思い出して、彼女との仲を勝手に連想して……俺も泣き出しそうになった。
「煉獄さんは……この簪を渡す時、俺の知らない匂いがしました」
______それは混じり気のない、男の匂い。
「煉獄さんは、凄い人で、尊敬した……っ」
俺がなんとか言葉を紡ごうとすると、彼女はそっと笑った。
膝に簪を起き、両手を広げて、
『こんなの、お門違いなのでしょうけど……流石に私もひとりでは無理……』
耐えられないわ……っ。そう皮肉に笑う。
彼女は俺を優しく抱き締めた。
「全然っお門違いじゃないですよ……っ」
優しく頭を撫でられて、俺はもう一度稚児のように泣いた。
『あの人はっ本当に酷い男』
傷を舐め合う俺とAさんの頭を禰豆子はそっと撫でた。
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おもち - 赤い花白い花の歌詞が入っていてとても惹き込まれましたー!とても素敵です!!! (2020年3月24日 21時) (レス) id: 2fd70573e8 (このIDを非表示/違反報告)
茄子(プロフ) - 小説も挿絵も何もかもがとても素敵でした……素晴らしい作品をありがとうございます…… (2020年1月25日 23時) (レス) id: 58113d68f6 (このIDを非表示/違反報告)
モルス(プロフ) - 涙が止まりません……こんな素晴らしい作品をどうもありがとう…… (2019年12月2日 14時) (レス) id: d7cc26133c (このIDを非表示/違反報告)
愛郎素(プロフ) - 香坂さん» 語彙力が!高い!!よもやよもやです……本当に書いていてよかったと感じました!これからも頑張ります! (2019年10月12日 14時) (レス) id: 56f98660a0 (このIDを非表示/違反報告)
香坂 - 言葉使いや書き方、表現に引き込まれました。一つの本を読み終えた時のような気持ちになり、とても良い作品だと心から思いました。このお話が読めてよかったです。 (2019年9月18日 17時) (レス) id: c6f322a1f4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:愛朗素 | 作成日時:2019年8月30日 21時