2話 ページ4
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自分と少年にかかる影から、私は少年を抱えて避ける。
距離を開け着地した鬼は私の人間とは違った動きに首を傾げた。
「こんばんは、お姉さん。随分と機敏に動くねぇ」
「鬼!!!」
少年は腕の中で声をあげた。
「おっと、ガキもいたのか。こりゃあツイてる」
ニタニタと笑う鬼は舌なめずりをする。生憎と子供を食べる趣味はなかったが、焼死した同僚には子供を好む鬼がいた。育ち盛りの血肉と骨の食感と未成熟な味は非常にオツ…そんな残酷なことを思い出した。
「しっかし、お姉さん…不思議な匂いだ」
匂いをかまれて、ゾッとする。捕食対象の気持ちというのは、本当に切ないのを痛感する。
しかし、私は捕食対象とみなされているが、鬼の糧ではない。
あなたと私は同族……なんて言うのは面倒だ。
少年の前で目の前の鬼を満身創痍にするのは気が重い。
このまま抱えて撒きたいところだが、来た道の先には少人数の村がある。
それに、相手は一匹じゃない。
『出て来たらいかが?』
「ははっバレてんぞ、相棒!!」
鬼が面白おかしく笑うと、背後の林から大きな鬼が現れた。
「この女…鬼殺隊か?」
重たい声で言う大鬼は涎を垂らして、私を見ている。
本当にため息だ。いつから私は人間の香りをするようになったのか。
「あんな細い腕で刀が持てる訳ねぇだろ」
ええ、その通り。
刀なんて、この手に持った記憶はない。無論、必要はなかった。
「精々、山育ちの女だろう?熊に敏感ってな______え"???」
暗闇で血飛沫が舞う。当然私のものでも、少年のものでもない。
勝手に考察を進める小さい方の鬼の腕を手刀で切り落とした。
爪で引き裂く、牙で噛みちぎる。鬼の強みはそれだけではない。
それだけではただの熊だ。
『目をつぶって、口を閉じて。しないと気絶させるけど』
言い終わる前に少年は目をつぶり、口を閉じていた。
毎度毎度とまではいかないが、何度かこういう事態があればさすがに学習するか。
教育上非常によろしくないので非常に助かる。
『私、人じゃないから』
手を一本持って月を背中に立つ私は果たして彼らにどんな風に見えるのか。
鬼同士の戦いはきりがない。致命傷を与えるのが不可能に等しいからだ。
刻んで木に貼りつけよう。朝日が彼らを殺してくれる。
さてと、やろうか。
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おもち - 赤い花白い花の歌詞が入っていてとても惹き込まれましたー!とても素敵です!!! (2020年3月24日 21時) (レス) id: 2fd70573e8 (このIDを非表示/違反報告)
茄子(プロフ) - 小説も挿絵も何もかもがとても素敵でした……素晴らしい作品をありがとうございます…… (2020年1月25日 23時) (レス) id: 58113d68f6 (このIDを非表示/違反報告)
モルス(プロフ) - 涙が止まりません……こんな素晴らしい作品をどうもありがとう…… (2019年12月2日 14時) (レス) id: d7cc26133c (このIDを非表示/違反報告)
愛郎素(プロフ) - 香坂さん» 語彙力が!高い!!よもやよもやです……本当に書いていてよかったと感じました!これからも頑張ります! (2019年10月12日 14時) (レス) id: 56f98660a0 (このIDを非表示/違反報告)
香坂 - 言葉使いや書き方、表現に引き込まれました。一つの本を読み終えた時のような気持ちになり、とても良い作品だと心から思いました。このお話が読めてよかったです。 (2019年9月18日 17時) (レス) id: c6f322a1f4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:愛朗素 | 作成日時:2019年8月30日 21時