16話 ページ18
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「煉獄さん…もしもーし、煉獄さん?聞こえていますかー」
微かな藤の花の匂いが漂う蝶屋敷。
外にせり出した通路にて庭をただじいっと観察する煉獄杏寿郎に可憐な声がかかった。
紫と蝶の少女は小さく首を傾げ、煉獄さん、と彼の姓を呼ぶ。
「ん?どうした胡蝶!大丈夫だ、聞こえている!」
目をかっぴらいて、煉獄はかなりの間を開けて、胡蝶しのぶに返事を返す。
胡蝶はたおやかに微笑んだままだ。
「それは何よりです。煉獄さん。あなたまで冨岡さんのようになってしまったと心配したのです」
A、という名の鬼。
いつか自分が首を斬る女鬼の住む土地での任務を終えて、煉獄は今朝方蝶屋敷に来ていた。
廊下を歩いていると胡蝶が髪を揺らして、言う。
「北の方の任務を終えてからずっとその調子ですね」
胡蝶の指す「調子」の意味がわからず、煉獄は聞き返す。
「その調子とは?」
「ずっと上の空ということです」
確かに、どこか呆けてしまう気はしていた。
これも鍛錬不足……家に帰ったら、素振りをしよう。
「任務先でどうかされたんですか?」
その事となると、あるのはやはり、風変わりなひとりの鬼の事だけだ。
どうかしたも何も……鬼と妙な誓を立てた事に今になってどうかと思う。
「任務は時間がかかってしまったが、誰も失わずに遂行できた」
近くもなければ遠くもない藤咲き乱れる山の鬼の事はそっと、胸の奥にしまう。
「さすが、炎柱。何も無ければいいのです。お世話でしたね」
煉獄は任務を終えた後、身体検査を含め怪我はないか、という確認で蝶屋敷に訪れる。
異常は特になく、テキパキとした診療を経て、家に帰ろうとした。
蝶屋敷は怪我をした隊士で病室はほぼ埋め尽くされ、胡蝶は胡蝶で忙しそうだった。
「胡蝶、鬼に害のない匂いとはなんだろうか」
「はい?」
「いや、なんでもない。では」
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おもち - 赤い花白い花の歌詞が入っていてとても惹き込まれましたー!とても素敵です!!! (2020年3月24日 21時) (レス) id: 2fd70573e8 (このIDを非表示/違反報告)
茄子(プロフ) - 小説も挿絵も何もかもがとても素敵でした……素晴らしい作品をありがとうございます…… (2020年1月25日 23時) (レス) id: 58113d68f6 (このIDを非表示/違反報告)
モルス(プロフ) - 涙が止まりません……こんな素晴らしい作品をどうもありがとう…… (2019年12月2日 14時) (レス) id: d7cc26133c (このIDを非表示/違反報告)
愛郎素(プロフ) - 香坂さん» 語彙力が!高い!!よもやよもやです……本当に書いていてよかったと感じました!これからも頑張ります! (2019年10月12日 14時) (レス) id: 56f98660a0 (このIDを非表示/違反報告)
香坂 - 言葉使いや書き方、表現に引き込まれました。一つの本を読み終えた時のような気持ちになり、とても良い作品だと心から思いました。このお話が読めてよかったです。 (2019年9月18日 17時) (レス) id: c6f322a1f4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:愛朗素 | 作成日時:2019年8月30日 21時