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31話 ページ33

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「では、行こうか」

『はい、煉獄さん』




昨日とは柄の違う匊の着物に、真っ赤な口紅。首の傷を見せないのはもちろん、急に日光に照らされては困るので首のあるレエスのシャツに手袋をはめる。

祝日の街中はひどくごった返し、真夏のような暑さを感じた。

雨は降りそうにないが、分厚い雲が空を覆う。


「最初は歌舞伎なんだが、大丈夫だろうか?寄りたいところはないか」


何度か来ている街ではあるが、さして観光にも地理にも詳しくない。煉獄さんの考えがあるのなら、私はそれに従うだけだ。

ただ、今日は、少し我儘を言いたい気分になってしまった。



『寄りたいところは特にないですけど…色々と見て周りたいです』



煉獄さんは笑うと、快く受け入れてくれた。

結局、歌舞伎座に着くまでかなり道草をしてしまった。
買ったものは少なかったが、出店の雑貨店や扇子やで物色を繰り返した。



「食べないか」


差し出された四角形の黄色いもの。一口より小さい大きさで、砂糖の匂いがする。

さつまいもの餡を砂糖で固めた菓子で、煉獄さんが買ったものだ。
味覚が混乱している私が感じられる数少ない食べ物。栄養にはならないけど、口の娯楽だ。


私は控えめに口を開いたが、なかなか煉獄さんが菓子を放り込んでくれなかった。


ん……?
少し見上げる。


『(あ……)』



今まで見たことの無い、何か耐え難い目をしている。



「ああ、すまない。美味しいだろうか」

『……ん、はい、美味しいです』

やっと口内に転がった微かな甘さと滑らかさに咀嚼して、元通りになった目から視線をそらす。

顔が…熱い……。軽く顔を手で扇いだ。







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目的にしていた歌舞伎の公演が始まる前に席についた。


「お夏狂乱だ」

『今日の公演?』

「まだ見た事がなくてな」

『駆け落ちの話らしいですよ』



男と女の駆け落ち……江戸時代を舞台にされたそれは、あの時代ではよくあった事だと思い出す。



娘役の役者が赤い匊を胸に抱いて、その話は終わった。

あっという間の事で、ほのめかされていた匊の花言葉を考えた。
知っているような気はするけれど、思い出せない。


次もまた、どこかに行くようで、その道中会話を交わす。



「あの歌の赤い花とはなんの話なんだ?」

『赤い匊です。意味は忘れましたけど』




それは、遠い昔に意味を知った気がする。



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_____赤の花言葉は?

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おもち - 赤い花白い花の歌詞が入っていてとても惹き込まれましたー!とても素敵です!!! (2020年3月24日 21時) (レス) id: 2fd70573e8 (このIDを非表示/違反報告)
茄子(プロフ) - 小説も挿絵も何もかもがとても素敵でした……素晴らしい作品をありがとうございます…… (2020年1月25日 23時) (レス) id: 58113d68f6 (このIDを非表示/違反報告)
モルス(プロフ) - 涙が止まりません……こんな素晴らしい作品をどうもありがとう…… (2019年12月2日 14時) (レス) id: d7cc26133c (このIDを非表示/違反報告)
愛郎素(プロフ) - 香坂さん» 語彙力が!高い!!よもやよもやです……本当に書いていてよかったと感じました!これからも頑張ります! (2019年10月12日 14時) (レス) id: 56f98660a0 (このIDを非表示/違反報告)
香坂 - 言葉使いや書き方、表現に引き込まれました。一つの本を読み終えた時のような気持ちになり、とても良い作品だと心から思いました。このお話が読めてよかったです。 (2019年9月18日 17時) (レス) id: c6f322a1f4 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:愛朗素 | 作成日時:2019年8月30日 21時

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