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6話 ページ9

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「鬼一口って知ってるかい?」


店の明かりが鮮明に背中を照らす。
男の横でその体を支えながら、私は貸してもらった提灯で夜道を照らした。

不安定な足取りで、時より男の体重は私にかかった。

酒の匂いがする。
腕と腕を強く絡ませて、演技する体を支える。骨が軋む気がした。


私は暗闇の先を見つめる。


「芥川っていう平安の話があるんだが、君は古典は好き?」


確か、伊勢物語に収録された話だ。
ええ、まあ、ある程度は。私は曖昧に答えた。


「駆け落ちの話さ。男は女をようやく盗み出して、前途を歩む。けれどもそこで雷が唸って、」


「女は鬼に一口で食い殺された。その悲鳴は雷鳴に遮られる。」



咄嗟のことである。
細長い指が伸びてきて、流れるように私の顎を掬い上げる。
私は本当にびっくりして、余程緊張しているんだなと改めて実感した。

目と鼻の先に男の顔がある。


…………こうも強く、食べたい、なんて思われた事はなかった。
品定め……されていたのは私なのである。私だったのだ。


そうだ、相手は上弦だ。強い上位の鬼だ。

ならそのお腹の中には、鬼殺隊隊士が解けていてもおかしくない。
今まさにその一部に、私はなろうとしている。


「鬼一口なんだぜ、お嬢さん♡♡」


本能的に危機感をはっきり感じた。首を激しく振る。後ろに飛び退いて、日輪刀の柄を握る。

地面に潰れ落ちた提灯の中、火が弱くなって行った。




鬼は見返り気味に私を見捉えている。着物の袖から(つい)の金色の扇が落ちて来て、鉄扇を広げると優雅に口元隠して扇いだ。

消えていく火に下から照らされ、虹色の瞳は輝き、「上弦」と「弐」という漢字が笑う。
ゾッとする。まるで、ホラァだ。




「朝一番に説法があるんだ。逃げ回っていいけど、空気を読んで明ける前には食べられてね」




扇をひとつ閉じて、音を鳴らす。
これが教祖様。とち狂っている。今まで見てきた鬼以上に。




「俺はよく食べ損ねちゃう鬼でね。気に入った子に限ってそうなんだ。特に花の呼吸のなんだったけかなァ……よく覚えてないけど、綺麗で可愛い女の子で本当に美味し____おっと」



私は飛び上がって、頭上で刀を振る。



「急に斬り掛からないでおくれよ!嫉妬かい?ならあの子の話はやめてあげよう」


軽くかわされ、扇が嫌に鳴く。


「大丈夫だよ、ちゃんと骨の髄まで綺麗にしゃぶって食べてあげるよ……可愛い顔が台無しだ。景気よく笑った方がいいぜ?」



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(プロフ) - 更新待ってました!嬉しいです…! (2019年12月30日 15時) (レス) id: 64286635fd (このIDを非表示/違反報告)
はっか糖(プロフ) - 作品の雰囲気が素敵です… 有難うございます…!! (2019年11月8日 21時) (レス) id: 5853246d58 (このIDを非表示/違反報告)
愛郎素(プロフ) - ぶちゃさん» だ、大丈夫か!!!!!! (2019年11月4日 17時) (レス) id: 56f98660a0 (このIDを非表示/違反報告)
ぶちゃ(プロフ) - あっっっっっ(尊死) (2019年11月4日 16時) (レス) id: fb2695ac36 (このIDを非表示/違反報告)
愛郎素(プロフ) - オルガさん» 頑張ってます!!ありがとうございます!!返信遅れてすみませんでした!これからもよろしくお願いします! (2019年11月4日 15時) (レス) id: 56f98660a0 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:愛朗素 | 作成日時:2019年10月27日 10時

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