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4話 ページ7

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体のざわめきが一気に静まった。まるで水中で音を聞いているようで、鈍い騒音が遠くで聞こえる。


「俺の事、殺さないで。お願い」


おれのこと、殺さないで。
おれのこと、殺さないで。
おれのこと、殺さないで。


ぐらり、と視界が一瞬大きく揺らいだ。
言葉は理解できる。しかし、その意図と意味が理解できなかった。

斬ってきた鬼は、私が女だと軽んじて常に余裕そうに笑って、首を落とされ死んでしまう。

鬼にそんな気持ちがあるのか。
人間のように惨めったらしい命乞いで、この鬼と人を重ねてしまう。


手から逃げた盃が床に落ちて、辛い酒を吐き出した。舌先が痺れ上がる。


「あぁ、揺らいだね。揺らいでいるね。()がこんな事言うとは思わなんだろう。そうして、悩んでいる。ただ斬ればいいと思っている反面、君は俺に結構揺らいでいる」


ずっと、ずっと、内に秘めていた事だ。
鬼も元を辿れば人である。幸せな暮らしを持つ筈の人である。

それを、彼らを私が斬っていく過程で、ふと、本当に怖いのは純粋な人間じゃないのかと。


「修業が足らないなァ」


人が家畜を食べるように、鬼も人を食べる。
単なる循環だった。
家畜は喋らないから、人と違い下等だから。食べないと死に、舌の娯楽であるから。

だから、人が家畜を食べるのは許される。




「何をお話しているの?」

常軌を逸した空間に大人の女性の声が溶けた。
さっきまで、この鬼の腕に絡みついていた娼妓だった。

心底、この男に惚れ込んでいる様子。

「お悩み相談だよ、鬼狩り様のお悩み相談にのっていた」


鬼の呂律がややおかしくなった。頬も一瞬で紅葉して、嗚呼、なんとも面妖かと思った。

演じているのだ。

所詮、まやかしの優男に過ぎない。



「おっと、今は何時だい?」

「十二時じゃないかしら」

「じゃあそろそろ、帰らないとね」

「今日は泊まって行かれないの」


女は意味深しげに上目遣いをした。勘弁してくれ。



散々掻き乱された心でも、逃がしてはならないと叫ぶ。

私は立ち上がって、水を弾く隊服の乗るお酒の露を払った。羽織の裾を正して、極めて平常心で鬼に言う。


『でしたら、私が責任をもって送ります。千鳥足では夜道も不安でしょうから』


「じゃあ、そうしよかな」


私達をあっけらかんと女は見上げた。



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(プロフ) - 更新待ってました!嬉しいです…! (2019年12月30日 15時) (レス) id: 64286635fd (このIDを非表示/違反報告)
はっか糖(プロフ) - 作品の雰囲気が素敵です… 有難うございます…!! (2019年11月8日 21時) (レス) id: 5853246d58 (このIDを非表示/違反報告)
愛郎素(プロフ) - ぶちゃさん» だ、大丈夫か!!!!!! (2019年11月4日 17時) (レス) id: 56f98660a0 (このIDを非表示/違反報告)
ぶちゃ(プロフ) - あっっっっっ(尊死) (2019年11月4日 16時) (レス) id: fb2695ac36 (このIDを非表示/違反報告)
愛郎素(プロフ) - オルガさん» 頑張ってます!!ありがとうございます!!返信遅れてすみませんでした!これからもよろしくお願いします! (2019年11月4日 15時) (レス) id: 56f98660a0 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:愛朗素 | 作成日時:2019年10月27日 10時

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