35話 ページ38
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朝日と同じ布団に入って、その夜は寝た。
風呂上がりのお互いの身体は温かく、良い匂いがした。
喉が渇いて真夜中に目が覚めた。時計は丑三つ時を指している。朝日は隣で寝ている。
そっと布団から抜け出して、部屋を出て、階段を降りた。
この花街に入って二ヶ月は経ったか、時より送られてくる伊黒さんの文がなければ曜日感覚が狂う。
そろそろ、昌幸さんに会えない理由をはぐらかすのもネタが尽きてきた。
『甘いの食べたい』
駅前の洋風な喫茶店でケイクが食べたい。
レモネードも飲みたい。そう私欲にくらめばくらむ程、喉の渇きを強くなる。
ここには酒とお茶と水しかない。
化粧水だけじゃ肌ツヤ誤魔化せないぞ……。
『嗚呼、レモネード……』
レモネードは、レモンの甘酸っぱさに砂糖の上品な風味に、スパイスのつんざく……
つんざく…………
鼻のつんざく
『血の匂いだ……』
血の匂いだ。
鉄の腐る匂いに、肉と骨を砕く音がする。
血と骨と肉の匂い。
人間の死体の匂いだ。
髪を留めた杭の形の簪を引き抜いて、構える。
壁に背をくっつけて血の匂いを辿る。
辿り着いた先は厨房で、微かに中が明るい。
包丁を忍ばせて肉を断つ音が聞こえる。
『(肉を調理している……?真逆、鳥の肉?いいや、……だったらこんなに血生臭くない……)』
呼吸を整え、暖簾を足速に潜って、私はその対象の口を押さえて跨り倒した。
『ッ?!店主、様』
「……ッ」
目を見開き、血塗れで包丁を掴むのは、鬼討伐を依頼した店主だった。
この人が鬼???
抑えた私の掌の下で、彼の口は何かを訴えようと動いた。
十分な警戒を払って、私は「声は小さく」と囁く。彼は泣きそうな顔で何度も頷いた。
『一体、どういう_____』
「私をお助けください……!!私、私は鬼ではありません。お願い致します……!!どうかご慈悲を、私は店を思って……!!」
『落ち着いて、落ち着いて、あなたが鬼ではない。助けを求めている事はわかりました。では、何故……あなたは、店の娼妓を切っているのですか』
厨房のまな板の上には華奢な腕がのっている。
大皿には内蔵、極め付きは生首だ。
「鬼狩り様……A様……私は多方に嘘をつきました。伊黒様にも、あなたにも。鬼が居るのは明白でした。この花街には鬼がいます」
この店には鬼が居ます。
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叶(プロフ) - 更新待ってました!嬉しいです…! (2019年12月30日 15時) (レス) id: 64286635fd (このIDを非表示/違反報告)
はっか糖(プロフ) - 作品の雰囲気が素敵です… 有難うございます…!! (2019年11月8日 21時) (レス) id: 5853246d58 (このIDを非表示/違反報告)
愛郎素(プロフ) - ぶちゃさん» だ、大丈夫か!!!!!! (2019年11月4日 17時) (レス) id: 56f98660a0 (このIDを非表示/違反報告)
ぶちゃ(プロフ) - あっっっっっ(尊死) (2019年11月4日 16時) (レス) id: fb2695ac36 (このIDを非表示/違反報告)
愛郎素(プロフ) - オルガさん» 頑張ってます!!ありがとうございます!!返信遅れてすみませんでした!これからもよろしくお願いします! (2019年11月4日 15時) (レス) id: 56f98660a0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:愛朗素 | 作成日時:2019年10月27日 10時