別れなよ、兎に角。そして俺と付き合えばいい。 (ページ4)

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１話ページ4

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『いや、私は自分の仕事を全うしただけなので』

私は差し出された野菜、米、金品や着物を見て、いやいやと胸の前で手を振った。

「遠慮しないで、うちの稼ぎ頭の命を救って貰ったお礼よ」
「鬼っているのねえ……こんな若くて女の子なのにそんなお仕事してるなんて」

妙年の女性達が私を取り囲む。

先刻、道中で鬼に襲われていた娼妓(しょうぎ)の少女を助け、花街まで送りに来たのである。
そうすれば、どうだろう。
まるで大英雄のように崇められ、貢物が周りに並べてあった。

「男の人だったら、お礼も十分にできたんだろうけど……なんせ花街だからね」

私は苦く笑った。決まりの悪い愛想笑いである。

花街……いわゆる、男のお客相手に女の子達がお酌をしたり、お遊びをしたり、褥でキャッキャウフフするお店が並ぶ通りである。

女の私にはあまり馴染みがない。

変に困らせたくなくて、私は言う。

『食事だけでいいので』

「悪いわ……うんと美味しいものを作るわね。お風呂にも入って行って！お酒はお好きかしら？舞茸は食べれる？今朝山で採ったの」

押され気味にありがたい、と「じゃあ入って行きます」とか「飲めます」「食べれます」とか返していると、華々しい娼妓の少女達が今度は私を囲ってあれよこれよと手を引かれる。

「綺麗な羽織」

「どうしてこの刀は刃が透明なの？」

「鬼と戦って怖くないの？」

私はひとつひとつ丁寧に答えた。
大勢の娼妓の少女達が私の体を洗いながら、私の話にひどく聞き入っていた。

結果的に。
食事の前に正座した時には、私は疲れきっていた。気疲れである。

「あの、先程は助けて頂いてありがとうございます」

『乱暴に抱えてしまったけど、大丈夫ですか』

助けた女の子が側に座って、お酌をしてくれた。可愛い女の子だ。

さして強くないお酒の所為で気分がふわふわと高揚してきた頃だった。
目の前のどんちゃん騒ぎで、私は思わず堪え切れなくて笑ってしまう。

目尻に溜まった涙を拭って、不意に何かの足音に気づいた。

「あら、お客様いらっしゃいませえ」
妙年の女性が足音の正体に言う。

そうして、私の気持ちいい気分が吹っ飛んだ。

なんとも神秘的な虹彩か。
彼を初めて見た人はその瞳の美しさに感嘆の息を飲むだろう。

しかして、私は緊張の息を飲んだ。

煌々と輝く虹色の瞳。
瞳には「上弦弐」という漢字が刻まれていた。

「面白そうだね。俺も交ぜておくれよ」

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