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16話 ページ19

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誰かが母さんを食べていた。父さんの虚ろな生首が私を見ていた。
小さい私が母さんに抱き着くと、誰かが驚いて私の体を打った。


それが鬼だと気づくのはもう少し先の事。


泣きながら、やめてと叫んで喚いた。

鬼は咀嚼をやめて叫んだ。



「俺だってなあ、食いたくて食ってるんじゃねえんだ!!しょうがねえだろ!!人が豚食うように、俺だって人を食うんだ、悪いことじゃねえだろ…………ごめんなァ、母ちゃんの事食って、ごめんなァ……お前の事は食わねえからよ……」



支離滅裂、情緒不安定な心の叫びだった。
あれから、ずっとその言葉が脳裏に響いている。




その鬼が斬られた時、私は叫んだ。小さな小さな善悪と世界観がズレた音がした。




鬼とは一等悲しい生き物である。
人の幸せを奪われ、暖かみを攫われ、たった血一滴で人を糧にする化け物と化す。

暗闇の中、私が照らした電灯に当てられ、腐り始めた兄弟の肉を一心不乱に食べる鬼に私は涙した。



「それは、いずれお前の命を奪う」



お師匠様は私に言った。
相変わらず、冷淡で渋みのある声は好きだけど、天狗のお面の下、隠れるお顔はどんな表情をしているかわからない。


「お前は少しズレている。お前の鬼に対しての妥協は、改めなければならない。もしくは、剣を置き、良い男の元に嫁ぐ事だ」


皮膚の硬い掌が私を撫でる。
この手も私は好きだ。お師匠様は言葉にしない分、抱き締める事や頭を撫でる事は本当に優しい。



「その惚れっぽいところをどうにかしろ」



男と別れて、散々路地裏で泣き喚いた非番の夜だ。

いつの間にか兄弟子が立っていた。怒っていた。「探し回って、駆け回った」そんな表現の見合う髪の乱れ形だった。



「泣くな、お前の判断が悪いからだ。もっといい女になればいいだろう」



跪いて、乱れた着物の裾を治してくれた。
手のかかる妹弟子だ、兄弟子はほとほと呆れた溜息と笑みで涙を拭った。



「頼むから、絶対に鬼は好いてくれるな」



妹弟子返りをして、おぶられて、兄弟子に甘やかされたのを覚えている。




私はとことん、馬鹿な女なのである。
人生と自分を大切にしない、罪な女なのである。





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(プロフ) - 更新待ってました!嬉しいです…! (2019年12月30日 15時) (レス) id: 64286635fd (このIDを非表示/違反報告)
はっか糖(プロフ) - 作品の雰囲気が素敵です… 有難うございます…!! (2019年11月8日 21時) (レス) id: 5853246d58 (このIDを非表示/違反報告)
愛郎素(プロフ) - ぶちゃさん» だ、大丈夫か!!!!!! (2019年11月4日 17時) (レス) id: 56f98660a0 (このIDを非表示/違反報告)
ぶちゃ(プロフ) - あっっっっっ(尊死) (2019年11月4日 16時) (レス) id: fb2695ac36 (このIDを非表示/違反報告)
愛郎素(プロフ) - オルガさん» 頑張ってます!!ありがとうございます!!返信遅れてすみませんでした!これからもよろしくお願いします! (2019年11月4日 15時) (レス) id: 56f98660a0 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:愛朗素 | 作成日時:2019年10月27日 10時

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