百日草 (ページ37)

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黒side

珍しく何にも阻まれずに朝を迎えた。こんなに熟睡したのは…多分左腕に症状が出始めて以来だと思う。

ケータイを見れば、午後にはメンバー全員来る予定だと連絡が入っていた。

久しぶりに、自分の足で立ってみたいと思った。

先生にバレたら、いつ貧血で倒れるかわからないんだから…とか怒られそうだけど、今日はなんとなく歩けそうな気がしてゆっくり、ほんとゆっくり歩き出す。

普段の何倍もの時間をかけて、壁伝いにようやくたどり着いた洗面台。鏡に映る自分の顔は、青白くて頰がこけてて髪もボサボサ。

「ははっ……ひでぇ顔。」

とてもじゃないけどちょっと前までアイドルしてた人間の顔面とは思えないやつれ具合に思わず笑ってしまった。

こんな顔、みんなに見せたくない。

顔を洗って、髪も整えて、持ってきたものの一度も使ってなかった化粧水なんかもつけてみる。

服も、持ってきたのはダル着ばっかだけどその中でも一番お気に入りのやつを選ぶ。

「よし。さっきよりはマシになったかな。」

ハッとした。

入院が始まってから身なりに気を使ったのなんて初めてだ。ひとりぼっちで誰にも会わない入院生活は、俺から人間らしさを奪ったらしい。そして、みんなに会うことが、俺に忘れてたものを取り戻させてくれた。

「なんか貰ってばっかだなぁ。俺」

いつも大事なことを気づかせてくれるのはメンバーだ。落ち込んでるところを救ってくれるのも、心身ともに疲れた時に頼らせてくれるのも、バカな俺を赦してくれるのも。結局みんななんだから。

扉がノックされて、先生が入ってくる。

「あれ、北斗くん。今日ずいぶんおしゃれじゃん。」

「んふふ。今日はメンバーがくるんです。楽しみだなぁって。」

「そっか。君がメンバーさんを頼れるようになる日を心待ちにしてたんだ僕は。明日のために元気もらっておきな。顔色も良くなった気がする。安心したよ。」

傍目にわかるほど俺張り切ってんのか…。なんかちょっと恥ずかしい笑。

ティッシュの位置を直したり、カーテンを整えたり。まあいわゆるソワソワしてる人の典型みたいな俺。

かれこれ数時間、俺は目の前の扉がノックされるのを待っている。