百日草 (ページ12)

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黄side

「樹っ！」

反応の遅い自動ドアにイライラしながら救急に駆け込む。そこにはいささか疲労困憊といった様子のマネージャーがいた。

「髙地。遅くに呼び出して悪かった。」

「そんなことより樹はっ？どうなってるのっ」

「撮影中呼吸困難になってスタッフさんが救急車呼んでくれたんだ。息ができない、ﾀﾋぬんじゃうって。そう言ってたらしい。」

「呼吸困難⁉︎どこが悪いの！」

「それが、どこも悪くないらしい。色々検査もしていただいたけど異常な点は見られないそうだ。」

「じゃあなんで！」

「いわゆる、過呼吸。精神的なものらしい。」

まただ。また助けられなかった。

樹が北斗のことを誰よりも気に病んでたのは分かっていたはずだ。苦しそうな顔をしてるのだって見ていた。

なのに、俺はどうした？
自分が現実逃避するのに必死で、樹に気を配るのを怠ったんだ。北斗のことだって、きっと辞めると決意する前に何かSOSを出してたはずなのに。

「っ！…ごめ、樹のこと頼んだ。俺樹に合わせる顔ないわ。」

マネージャーが呼び止めようとする声に背を向けて、俺は救急を飛び出した。

深夜の誰もいない外来のソファで、久しぶりにケータイを開いた。俺が目を背けてきたメンバーからのSOS。慎太郎の熱がまだ下がってないことも、大我がものを食べられないほど落ち込んでることも、ジェシーが睡眠障害になったことも、樹が北斗を見つけようと夜な夜な北斗が行きそうなところを探し歩いてることも。

何も知らなかった。知ろうとしなかったのは紛れもない俺だ。

何日振りかに意識した胃痛。今までとは比べ物にならない、内側からグサグサ刺されるような痛みに俺はソファから滑り落ちた。