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ゼエゼエと気管に痰が絡まった音がしてきて、ぺいんとはついに膝に手をついてしまった。
木々のざわめきと小鳥のさえずりと、死にそうな己の呼吸音のみイライラするほど耳に入ってくる。
汗でべっとりしたうなじを掻いて、なんであの時OKしちゃったんだろうと、ぺいんとはボンヤリそう思った。
いや、あの時はしょうがない。酒を呑んでたんだから。思い直し、額の汗を拭う。あの日正気に戻って、飲んだ酒の度数を調べるころには、スッカリAに丸め込まれていたので、無理だったのだ。あの女は最初っからおれを籠絡する気でいたんだから。
当の本人は、ンショ…とかウンン…とか言いつつ、ピョンピョコ山道を登っている。運動不足の体に山道は厳しい。トラゾーも連れてくりゃあよかった。しかし後悔後に立たず。ぺいんとはゆっくりと重たい足を踏み込んだ。
「ぺいんとさん」
「ンあ…はい」
「お水」
でも岩に腰掛けて水を飲むのは、悪くない時間だった。すぐそばに谷があり、小川がゆるゆる流れている。
彼女の横顔が、すりガラス越しに見たようにぼんやりした光に照らされ、思いがけず美しく、その輪郭をずっと見ていられた。ポツポツ話すのを聞くのも、また良かった。
「…あの花がある区域に行く時に、橋があるんです」
「うん」
「そこにお花が生えてたって、本に書いてあったの。その…崖の下に」
「あ…」
娼婦の花だな、とぺいんとは思った。随分物めずらしいのが好きなのか。大して名のある花ではないのに。それに、香水に用いるため毟り取られてもう絶滅したはずだった。もしかして、彼女も香水を作りたかったのだろうか。女1人では採れないから、おれを連れてきたのか。
なんだか肩透かしでもくらったようだ。がっかりした。そんなことなら、店で一等良い香水でも買って帰ればいいのだ。…たとえ強請ってきたとしてもまあ、大きな出費ではないのだし、エスコートの一端とでも思えばいい。
とっとと教えてあげて、帰ろう。余裕のあるように見えたが、案外無計画で、浅慮な女だったらしい。
「あー、あの。その花は…」
その花は、と口を挟んでから、ぺいんとは僅かに違和感を覚えた。
本に書いてあったとAは言った。本で調べたとなれば、絶滅のことは当然知っているはずだ。
水が底をついた。木漏れ日が岩に影を作っている。女の柔い手は、すぐそばに。
ぺいんとは目配せをして、ぞっとした。
Aは幸せそうに微笑んでいた。唯綺麗な微笑ではなかった。心からの、えくぼの浮かんで目がきゅっとなった笑みを浮かべていた。
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飼い主の姉(プロフ) - pnさんが夢主に狼狽する姿や描写が可愛くて好きです〜…！！🫶 無理しない程度に更新頑張って下さい！ 応援しております (12月5日 14時) (
レス) @page12 id: 5ee2b54502 (このIDを非表示/違反報告)
_maimai0101_(プロフ) - ｽｷﾃﾞｽ……夢主ちゃん頑張って〜〜〜〜！！！！生姜焼き太郎さんの世界観好きすぎます……！！！続き楽しみです🫶更新待ってます〜！！！！！ (10月16日 17時) (レス) @page8 id: cc01457125 (このIDを非表示/違反報告)
田中(プロフ) - 読みやすくて、とても面白かったです。続きも楽しみです🫶🏻🫶🏻 (10月16日 13時) (レス) @page8 id: d6054e066b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：生姜焼き太郎 | 作成日時：2023年10月15日 11時
