Ep.3 家 ページ4
「僕はお前では有りません」
面倒そうに、もう冷えた紅茶をすする。その目は不機嫌そうに影を落として、尚もこちらを見据えていた。
居心地が悪く、覚えず目を逸らすがまるで処女のような反応である。勿論、頬など染めてはいないしそういった意味で逸したわけでもないが。
「だったらなんだ。その押し問答を俺が寝るまで続ける気か?」
「母君が、許可をくださるのなら」
「その母君とは誰だ。どこの家だ」
ガタリと机が揺れる。不機嫌そうに組み替えられた足が当たったらしい。
「クライシス家、現当主代理。ベル・クライシス様です」
「ならお前もクライシスの子供か」
そこから調べるか。と後ろに控えていた男に耳打ちした翼の人。
だが残念なことに
「いえ、僕にその名を名乗ることは許可されておりません」
「は?」
「僕は秘匿されているそうです」
幼い頃から部屋から出ることを禁じられ、今の今まで顔を見たことがあるのは母君と専属として仕えてくれたライトだけだ。窓から眺めることのできる庭も庭師以外は立ち入りが禁止で、遠くに居る子供を見ることは禁じられた。
母君曰く、俺を守る為らしい。
だがどの社交界も仮面が義務だった自分の周りは昔から顔がない事が当たり前だった。お陰で顔の見分けが出来ないようになったが周りにいる人が少ない自分は服で見分けれたので問題は無い。
「つまり、隠し子?」
「そういうことなのでしょうか。ですが社交界へは出席いたしました」
「ますます分からん……」
ずっと不思議そうに顔を歪めた翼の人は遂に頭を抱えた。
なんだか頭が痛そうだ。
「頭が痛いのですか?場合によりますが目を冷やすと緩和されると言いますが」
数年前、本を読んでいたら頭が痛くなった自分にライトがしてくれた事。そういえば彼は今何処だろう。
落ち着いた印象の老紳士だったライト。幼い頃はライト爺と呼びつけては遊んでもらっていたような気がする。
一見すると完全に老人なのに子供を持ち上げて走り回る力はどこから出るのだろう。いやはや、不思議なものだ。
「お前が原因なんだが」
自分が思い出を振り返っていれば低い声が聞こえる。多分翼の人の声だが内容に驚いた。
原因?
自分が?
どうして?
「僕、何かしましたか?」
翼の人は改めて肩を竦めて幸せを駆け落ちさせた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 6人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：訓練兵【エラーコード：0330】 | 作成日時：2023年3月27日 11時
