俺はただの石ころだ。 (ページ18)

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Ep.15　遺存ページ18

拝啓。そう書いたペンを持つ手が震えた。遺書なんて柄ではない。団長に直談判する前に書いておかないと決意が揺らいでしまいそうだから、とペンを持ったは良いが良い文は浮かばない。

「兵長の事ばっかになっちゃうなぁ」

　書き始めた文章は稚拙で、滑稽だった。出てくる言葉はどれも兵長に関する感謝だとか、願わくば貴方の役に立ちたかったとか。

　別紙に書いたほうが良いと思えるくらいに、兵団に向けているはずなのに、恋文のように一人に当てたものだった。

「遺品なんて無いもんな」

　別に覚悟している訳では無いが本当に物の無い部屋である。物欲がないから、人にあげるばかりだった。

　それも形の残らない食べ物ばかり。

「僕が死んだら、何もなくなっちゃうな」

　簡素な部屋を見て独りごちた。服は兵団服以外持っていないし必要だとも思えなくて買うこともなかった。それこそ、基地から出ないからである。

「それっぽいものが有ったほうが良いかな。でも遺品整理させるの大変だよな」

　自分が死んだあとのことを考えるのは少し、息が詰まりそうだったが、それよりも彼の泣き顔が思い浮かびそうに無いことが救いだった。

　どんな風に泣いてくれるんだろう。否、泣いてはくれないか。きっと他の人と同じように共同墓地に埋められるだけ。もしかしたら母君の家の方が引き取りに来るのだろうか。

　
「泣いて、欲しいな」

　きっと我儘でしかない。自分のために泣いてくれだなんて。でも自分の死を悲しんでほしいのは本心だった。誕生日の分からない自分を、拾われたあの日を誕生日として祝ってくれた彼らだからこそ、枷にはなりたくない。それでも。矛盾だが、忘れないでほしかった。

　
「矛盾してるけど、遺書は簡潔にしたし……良いよね。思ってるだけなんだから」

　言うだけタダとか言うじゃないか。行動に移さなければ良いだけだ。

　そうやって、リヴァイに関すること全てを抜き取った、部屋と同じように。全ての事を簡潔な一文で済ませた至極簡素な遺書を備え付けの机にしまった。

　ものの少ない部屋だ。きっと最初に見つかるだろう。

　彼宛の遺書だけは、どうしようもなくて見つかる前に破棄してしまおうと乱雑にポケットに突っ込んだ。