俺はただの石ころだ。 (ページ1)

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Ep.0　鳥籠ページ1

昔から自分は偉い子供であると疑わなかった。手のかからない子だと思っていた。

　ごめんなさい母さん。

　今日だけは、わがままを許してくれますか。

　そんな言葉、幼く阿呆な自分には口から出すことは愚か、考える事も無かった。我儘を言えば母は苦労する。言いつけを守って、逆らわずに。相手が怒ればいつだって頭を下げて。

　いつからこんな卑屈になったっけ。

　正直思い出せはしない。自分にとってどうでも良いことだ。今はただ、このアブノーマルで、親に教えられたマニュアル外のことに唖然とする。いつだって正しかった母君は何も言ってはくれない。どうしてかは理解できない。自分は機転のきかない子なのだ。

「逃げ、なさ……」

　ああ何かが聞こえる。母君の声だろうか。ならば、子たるもの聞かねば。いついかなる時でも母君が正しいのだから。こんな時であっても聞かなければ。否、こんな時こそ聞かなければ。

　聡明な母君なら。

　母君が、あれ。

　母君の声が聞こえない。

　母君の手が冷たい。

　手首の脈が

　無い。

　どういうことだろう。声が聞こえないことに関係があるのだろうか。

「おいお前!!何やってんだよ!早く逃げろよ!」

「母君がここに居る。まだ指示をいただいていない。だからここで待機だ」

「はぁ!?明らかに死んじまってんだろ!!それ!」

　？

　しぬ？

　しんでいる？とは、一体何だ。埋めるべき状態ということか？でも母君はもう瓦礫の下に埋まっている。これ以上どう埋めろというのか。そもそもどうして同年代の子供から指示を受けなければならないのだ。

「お前!!死にてぇのか!!」

　首元の布を引っ張られる。思わず近づく顔と引かれた力になすがままの自分の体がぐらりと傾いて、反る。ぐしゃりと握り込まれた服はシワになることは確定で、母君が怒ってしまう。とつい怖くなった。

「でも、母君が」

「でもじゃねぇ!!もういい!!お前なんかしら、な……」

　刹那、我々が立つ場所が陰り、目の前の少年の顔が歪んだ。視線を辿れば見たこともない大男。服も着ていない。

　ああこれが噂の変態とやら、か。

「おじさんはどうして服を着ないのですか」

　そう問いかける自分にめもくれず、彼からすれば俺の後ろに居た少年が摘まれる。泣き喚く少年。助けてだとか死にたくないだとか。そんなことを口走っていた。

　何を大袈裟な。