郷とお化けは見たことがない ページ8
▽side:豊前江
小柄なくせして、大太刀なのだという『蛍丸』に連れられて、俺は本丸の色んなところを案内してもらっていた。
「んで、ここが大広間。みんなで使うとこ。ご飯はここで食べるから。まあ、あとは誰かと話したくなったり、双六なんかをしたくなったらここを使うかな」
座るところは一番下座だよ、と言われて不快にはなるものの、俺に語り掛けてくれた“新しい主”の言葉が、じんわりと心を温める。
『僕もずっと居ないもの扱いされてた』
『だから、君の気持ちが痛いほどわかるよ』
『いつか終わりが来るまで、ずっと僕といよう』
俺のいた昔の本丸は、戦力こそが第一な本丸で、「打刀」で特に秀でたところもない俺は、まるで幽霊のように扱われていた。
そのせいだろうか、全てを壊したくなってしまったのは。
気がついたら周りは真っ赤に染まっていた。
ガタイのいい、熊のような主は、俺の手によって、鮭の卵のように柔らかに切れて弾けた。
主のオキニイリが駆けつける間もなく、【本部】の人という人達が、主の遺体を綺麗に片付けて、俺に鎖をつけて、真っ白い部屋に閉じ込めた。
真っ白い部屋で、することも無く、ぐるぐると、取り留めのないことを考える。
『郷とお化けは見たことがない』って?
だったら、今の俺は、誰にも見つけて貰えなくて、誰にも仕えることのない、誰かに驚かれる幽霊以下の存在だ。
俺ってなんだ?
心が砕ける音がした。
それから、俺は主に会うことになったんだ。
。
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作者名:きさらぎはるか | 作成日時:2021年2月18日 18時