第57話 ページ8
「同じ力を付けるなら、楽しくやりたいな」
「一理あるよね」
吹雪の意見に一之瀬までもが同意を示したことが不満だったのか、染岡は「なんだよ、一之瀬まで!!」と彼を睨む。しかし一之瀬に「見ろよ。円堂はやる気満々だぜ」と言われ、円堂を見てハッとした。彼は楽しそうにブーツをボードに装着している。
「俺、スノボやるの初めてなんだ! 教えてくれ!! ……あら?」
『…?』
張り切る円堂の顔が徐々に傾いていくので、如月はつられるように首を傾げた。どうやらスノーボードが斜面につられて勝手に滑っていってしまったようで、円堂の「止めてくれー!!」という叫び声が聞こえる。
しかし如月にはどうすることもできず、情けなく伸ばしかけた手の先で円堂が盛大に転けてしまった。それを見ていた一之瀬が「あはは…」と困ったように笑う。
＊
そんなこんなでスノーボードの特訓が始まった。
鬼道、一之瀬、土門、塔子は、経験があるのか飲み込みが早いのか、序盤の段階で安定した滑りを見せている。風丸や如月も、多少ふらつきはするものの滑ることには成功していた。一方の円堂、壁山、目金、栗松はまだコツを掴めておらず、滑り落ちているといった表現の方が当てはまるという状況だ。
「あたしこの特訓気に入っちゃった!」
雪玉を避けられるまでに動けている塔子は、スノーボードの特訓を楽しんでいるようだ。笑顔で滑る彼女と鬼道の様子に、音無は「すごーい!!」と目を輝かせる。鬼道の「まあ見てろ」という言葉は伊達ではなかった。
「(見えない…。スピードに慣れていない所為なのか…?)」
その奥では、風丸が険しい表情で滑っていた。彼は先の景色に必死に目を凝らしているが、まだそれが見える段階ではないようだ。
荒谷の話していた「速くなればなる程感覚が研ぎ澄まされて、自分の周りのものがはっきり見えてくる」域には達していないのか――自身の武器だと思っていたスピードが、ジェミニストームは疎か吹雪にも敵わないことに焦りを感じていた。
「――、ｯ!!」
突然視界に現れた雪玉にハッとする。
しかし気付いた時には間に合うような距離ではなく、風丸は勢いよく雪玉に衝突してしまった。
「絶対に風になってやる!!」
風丸と同じように雪玉と衝突していたのか、雪玉から頭を突き出した円堂が拳を握って声を上げる。その横を颯爽と滑っていく吹雪が「キャプテン!」と声を掛けた。
「楽しむんだよ! 楽しんだら、体の方がついてくるよ!」
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作者名：一森 | 作成日時：2024年1月11日 1時
