第97話 ページ48
「それだけじゃない。あいつは勝つために、神のアクアを作り出した」
「神のアクア…?」
塔子は初めて聞く言葉に首を傾げる。彼女の反応を見た風丸が「人間の体を根本から変えてしまうものさ。神の領域にまで…」と説明する。消え入りそうな声で視線を落とす彼の脳裏には、フットボールフロンティア決勝での世宇子中のプレーが蘇っていた。
「結局それが、影山の逮捕に繋がったのよ」真相を知った塔子は「そんなことが…」と息を呑む。
「そいつが脱走したんだ」
「またサッカーを使って、何か企んでいるのか…!!」
大好きなサッカーまでもが影山の手によって汚されようとしていることが許せず、円堂は拳を自身の手の平に突きつけた。
「……」
瞳子は再びメールを見て僅かに眉を顰める。何か怪しいと感じたのか響木に確認を取ろうと連絡帳の画面を開いたが、はたと手を止めてミラー越しに如月の様子を見た。左手首を握って俯く彼女は、瞳子から見ても分かるくらいに震えている。
「(加澄……)」
今すぐに抱きしめてあげたい気持ちを抑え、瞳子は口をきゅっと閉じた。
＊
それから暫くして、愛媛に着いた雷門イレブンは休憩のためにコンビニに来ていた。真･帝国学園の話を聞いてから体を強張らせていた如月は、気分が優れないからと言ってキャラバンに残っていた。
『……ｯ』
体の震えは未だに収まらず、それどころか遂に愛媛に到着してしまったことで顔色は真っ青だ。何人かがキャラバンを降りる際に彼女に声を掛けたが、心配させないように振る舞うことで精一杯だった。
なんとか気持ちを落ち着かせようとジャージの袖の中に手を潜らせて傷痕に触れてみても気休めにしかならず、隣の席に風丸が戻って来れば他の方法を探さなければならない。
雷門イレブンのいる手前、瞳子に宥めてもらう訳にもエイリア学園の人達に連絡する訳にもいかない。どうしよう、どうしよう――恐怖と焦燥でまともではない頭をぐるぐると巡っていると、突然「加澄さん」と声を掛けられた。
『な、なに?』
ハッとした如月は急いで左袖から右手を出すと顔を上げる。如月の驚きように驚いた吹雪は「外で何かあったみたいで…」と窓の外に視線を向けた。彼の視線を辿ると、円堂とモヒカンの少年が対峙しているのを雷門イレブンが心配そうに見守っているところだった。
「僕達も行こう」
嫌な予感に胸を騒つかせながら、如月は吹雪の背中に付いて行った。
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作者名：一森 | 作成日時：2024年1月11日 1時
