第95話 ページ46
男――研崎竜一の問い掛けを背中で受け止めると、星二郎は再びお茶を啜った。口に含まれたお茶をゆっくりと喉の奥へ流し込み、ふう、と小さく息を吐く。彼は振り返らず、遠くを見た。
「ええ、シアンにはもう少し雷門にいてもらいます。…彼女は毒ですから」
「毒、ですか…?」
かこん、と鹿威しが音を立てる。研崎は意味が分からず繰り返すが、星二郎は彼の言葉には答えずに湯呑みを親指でそっと撫でた。
「楽しみですね、シアン…」
＊
翌日、イプシロンとの再戦に向けて更なる特訓が決まった雷門イレブンは、一先ず雷門中に戻るために漫遊寺中を発とうとしていた。
「色々ご迷惑をお掛けしました。我々のために戦ってくれたこと、感謝しています」「こちらこそ、色々ありがとう」円堂と垣田が握手して和やかな空気が漂う中、やけに周囲をきょろきょろとしていた音無が垣田の前へ出る。
「あの、木暮君は…?」
「そういえば、姿が見えませんね…」
彼女に言われて気付いたのか、漫遊寺イレブンは周囲に視線を巡らせた。しかし木暮の姿は見付からない。
彼から雷門ユニフォームを返してもらっていないことを栗松が思い出すが、夏未は「まあいいわ。記念のプレゼントってことにしときましょ」とそれを許した。
「木暮に言っといてください。サッカー頑張れって」
きちんと挨拶ができないまま別れることが惜しかったようで、円堂はどこか残念そうに微笑む。その後ろで音無が悲しそうに視線を落としていたが、木野に声を掛けられてとぼとぼとキャラバンに足を運んだ。
＊
漫遊寺中を出発したキャラバン内では、早速木暮が話題になっていた。
「いや〜、なんだかんだ言って木暮って奴は面白かったよなあ!」「チームに入れなくてよかったのかな…」楽観的な土門の言葉に、木暮をイナズマキャラバンに引き入れたいと思っていた風丸が同意を示す。如月もそれに頷くが、後ろの席で足を組む目金は反対派のようだ。
「いやいや、それでいいのです。あんな奴がいたら宇宙人に勝てるものも勝てなくなっちゃいますからね」
「シビアだなあ、目金君…」
彼の厳しい意見に一之瀬が苦笑いを溢した時、最後部座席から「あ、あのー…」と声が聞こえた。全員が振り返ると、巨体を縮こらませた壁山が膝の上で両手を重ねて「お話中のところすみませんが…」と言いにくそうに困っている。
「なんだい?」
吹雪に次いで振り返った染岡が「まじかよ!?」と声を上げた。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 95人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：一森 | 作成日時：2024年1月11日 1時
