第94話 ページ45
「つまらないですね。完膚なきまでに叩き潰せばよかったものを」
「マキュア、雷門ってきらーい」
「……でも、辛そうな加澄はもっと嫌い…」珍しく弱々しい声で言うので、他の面々も黙って視線を落とす。ただ1人、デザームだけは顔を上げて天井を見上げていた。
ここは、エイリア学園のとある部屋。彼らの脅威的な身体能力の源であるエイリア石から、そのエネルギーが供給される空間である。透明な壁に囲まれたこの部屋は、いつもエイリア石のエネルギーによって禍々しい紫色の光に包まれている。
「だが確かに強い」
「どんなに強い相手だろうと、倒せない敵などおりません」
チームのキャプテン･デザームに従うのは当然であるが、彼が雷門イレブンに10日の猶予を与えたことについてイプシロンのメンバーは納得していなかった。それもその筈、デザーム本人が雷門イレブンとの試合で胸を熱くさせていたことを自覚していないのだから仕方がない。
「我らには勝つこと以上に、もっと大きな使命がある。分かるな?」
デザームの腹心とも言えるゼルは、彼の問い掛けに「分かります」と返した。彼が横目で見るデザームは、尚も天井を見上げたまま「そうだ」と続ける。
「ジェミニストームが使い物にならなくなった今、我らの使命のために雷門中にはまだまだ利用価値がある」
彼らの使命――それは、恩人である吉良星二郎の野望を叶えること。そのために、雷門イレブンを利用して更なる自己研鑽に努めることを目的として今回は彼らを見逃したのだ。
漫遊寺中の校舎にいた1人の少年と目が合った時、デザームは星二郎の計画を思い出した。雷門イレブンがこれから戦う相手に勝てたならば、彼らはイプシロンにとって更に利用価値のある存在になっていることだろう。
「……」
ただ、デザームには1つ大きな懸念があった。
雷門イレブンと相見えることになるのは、如月と因縁のある人物だったと彼は記憶していた。それを星二郎が知らない筈がないが、だとすれば何故手を組むことにしたのか。
漫遊寺中で酷く怯えていた如月が思い出され、デザームは心配する気持ちを強く拳に握った。
＊
同じくエイリア学園のとある部屋。目の前に広がる日本庭園を眺めながら、1人の老人――吉良星二郎が湯呑みに入ったお茶を啜る。彼の斜め後ろに正座をするもう1人の男は、その背中を静かに見つめながら口を開いた。
「シアン様は、見逃したままでよろしいのですか?」
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作者名：一森 | 作成日時：2024年1月11日 1時
