第93話 ページ44
「遅いんだよ!! 今頃俺がすごいって分かったのかー!?」
いつの間にかピッチの外に出ていた木暮は、離れたところから心底楽しそうに笑って言う。木野と夏未はやれやれといった様子で苦笑していたが、音無が「木暮君!!」と目を吊り上げるので木暮は肩を跳ねさせた。
「あなたを褒めてるのにその態度はなんなの!?」
音無の様子に危機を感じた木暮は「うわあー!!」と両手を上げて逃げ出す。それを追いかけようと走り出した音無を、老人の「お待ちなさい」という声が制止した。雷門イレブンも、彼らに落とし穴から引き上げられる漫遊寺イレブンも、声の主に視線を向ける。
腰を曲げて杖をつく老人は、垣田に「監督…」と呼ばれた。
瞳子に「漫遊寺中サッカー部の?」と訊かれ「はい」と答える。
「今までどちらに?」
「この子達が我が校を守るために如何にするか、その決断もまた修練…」
勝つも負けるも人生の無駄にはならぬと、何も言わずに見守っておりました――漫遊寺中の監督は、藁でできた帽子の奥に隠された瞳で漫遊寺イレブンの姿を捉えていた。
落とし穴に落ちた彼らは互いに手を取りながら体を引き上げており、その表情は学校を破壊されたとは思えない程穏やかなものだった。
「あなた方と共に戦った木暮とて同じことですじゃ。…お嬢さん、木暮の心にあなたの言葉はきっと響く筈。今日のお心遣い、本当にありがたことですじゃ」
親がいないという同じ境遇に何か感じるものがあったのか、木暮に対して音無はどこか献身的だったが、監督にもそれが伝わっていたようだ。
「監督。木暮を仲間に入れなくてもいいんですか?」
「俺も、あいつは戦力になると思うんです」
「…彼が、自分の意思で私達と行くことを望むのならね」
風丸と円堂の提案に、瞳子は肯定も否定もしなかった。
これに漫遊寺の監督は「賢明なご判断ですじゃ」と頷く。
「…ったく、しょうがねえ奴だな。なあ、吹雪」
染岡が振り返ると俯いて黙ってしまった吹雪に、染岡は異変を感じて「どうした?」と顔を覗き込んだ。彼の視線を避けるように顔を背けた吹雪は「…僕、役に立たなかったな」と呟く。
「そんなこと言ったら、俺だって――」
「何にもできなかったんだ!!」
「こんなんじゃ駄目だ…。完璧にならなきゃ…!」悔しさに歯を食いしばる吹雪の瞳がオレンジ色に揺れる。彼の言葉を聞いた風丸は、ハッとして胸の前で拳を握った。
「やっぱり、奴らと戦うにはもっとパワーが…」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 95人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：一森 | 作成日時：2024年1月11日 1時
