第54話 ページ5
「とは言え、世界トップレベルのチームの中には、個人技を活かしたプレースタイルを重視するところもあります。吹雪君を中心とした白恋中は、まさしくそうしたタイプなのでは?」
『そうなの?』「うーん、どうだろう」目金の予想は外れだったようだが、そんなことは関係ない。「うちはうちだ!! 白恋じゃねえ!!」と染岡に一蹴され、目金は肩を跳ねさせた。
「どんなにスピードがあろうと、こんな自分勝手な奴と一緒にやれるか!! ……無理なんだよ、こいつに豪炎寺の代わりなんて…!!」
『染岡君…』
彼はきっと、吹雪君の前でこんなことまで言いたくはなかったのだろう。それでも感情に抑えが利かなくなってしまって、つい口から出てしまったのではないか――染岡の表情を見て、如月は察した。しかし彼に何と言葉を掛けたらいいか分からなくて、開きかけた口を閉ざす。
豪炎寺の代わりにはなれない、この一言はタブーだったのか、誰も何も言えずに不穏な空気が漂い始めた時、風丸が「それはどうかな」と沈黙を破った。雷門イレブンの視線が彼に集まる。
「俺は吹雪に合わせてみるよ」
「はあ!? お前何言って――」
染岡は言いかけてハッとした。風丸の表情は真剣で、暗い。
沈んでいく瞳は彼の心そのものを表しているようで、隣の円堂は彼のことを不安そうに見つめた。
「俺には、吹雪のあのスピードが必要なんだ。エイリア学園からボールを奪うには、あのスピードがなくちゃ駄目なんだ」
言いながら風丸の頭は下がっていく。「…そうでなきゃ、また前の繰り返しだ……」消え入りそうな声の彼の脳裏には、ジェミニストームに手も足も出ず散々にやられた試合の光景が過っていた。
もう二度とあんな思いをしないために、病床で待つ仲間達のために、ジェミニストームに勝つために、そのために北海道まで来た。こんなところで立ち止まっている場合ではない――風丸は自身の身体能力ではカバーできない焦りに苦しんでいるようにも見え、彼の言葉と同じ気持ちだからこそ、雷門イレブンは再び口を閉ざした。
「だったら、風になればいいんだよ」
今度は吹雪が沈黙を破る。風丸は俯いていた顔をハッと上げた。
風になるとはどういうことか、初めて聞く言い回しに円堂は「風?」と繰り返す。吹雪は柔らかく微笑んだ。
「おいで。見せてあげるから」
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作者名：一森 | 作成日時：2024年1月11日 1時
