第53話 ページ4
吹雪は背後から迫る風丸のスライディングを高く飛んで躱す。空中でマフラーを掴んで何か呟くと、荒々しく着地する頃には攻撃的な雰囲気を纏っていた。
「よっしゃあ!!」
雄叫びをあげながら猛スピードで攻め上がる吹雪を、円堂は「ま、まただ…」と戸惑った様子でゴールから見る。昨日の練習試合での吹雪の変化に違和感を覚えていた如月も、内心戸惑いながら向かって来る彼を構えた。瞳の色はオレンジ色で、昨日の落ち着いている状態の時とは異なっている。
「ったくショボいなお前ら! 俺について来れる奴はいねえのか!?」
「勝手すぎるぞ…」「僕ら、もう完全に無視されてますよね」吹雪と同じ赤チームの一之瀬と目金は、先を走る吹雪の背中を困ったように追いかける。その自己中心的とも言える単独プレーは普段の吹雪とかけ離れており、木野は「どうして誰にもパスを出さないの?」と不思議そうに彼を見つめた。そんな吹雪の前に如月が立ちはだかる。
『吹雪君、ちょっと落ち着いて』
「ｯ…!!」
女だからと油断していた訳ではない。寧ろ彼女の実力は知っていて、警戒していた筈だ。それなのに向かい合った一瞬であっさりとボールを奪われてしまった。流石だが、負けてはいられない――ボールを取り戻そうと振り返った時、如月が攻め上がらずに止まってこちらを向いていることに気付いた。周囲に雷門イレブンが集まっていたことにも。
「お前なあ、一之瀬も鬼道も、こっちに回せって声掛けてんだろうが!!」
「だって僕いつもこうしてたし」
「白恋じゃそうでもうちじゃそんなの通用しねえんだよ!! お前は雷門イレブンに入ったんだ、俺達のやり方に合わせろ!!」
「そんなこと急に言われても…」
『まあまあ――』
「そういう汗臭いの疲れるなあ」
吹雪の加入に不満を持っているためについきつい言い方になってしまうのだろうが、それにしても感情的になりすぎているのではないか。吹雪の側にいた如月がフォローを入れようとした時、当の本人の口から出た思いがけない言葉に、思わず『……へ』と間抜けた声が漏れる。
彼の言葉は当然染岡の怒りに油を注ぐこととなり、「誰が臭いって!? 誰が!!!」と頭に血が上った染岡を一之瀬と土門が押さえる羽目になった。
お互いにもう少し相手を尊重する気持ちがあれば上手くいくだろうに、このままで次のジェミニストーム戦は大丈夫だろうか。新たな不安に如月の胃が痛んだ気がした。
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作者名：一森 | 作成日時：2024年1月11日 1時
