第79話 ページ30
「でも、どうしてそんなに皆のことが信じられないのかしら」そんな時、木野が疑問を溢した。気になっていた話題というだけあり、考えるのをやめようとした如月は再び真剣に耳を傾ける。
「木暮は小さい頃、親に裏切られたようで」
「えっ、親に…?」
「ええ。それ以来、人を信じることができなくなったみたいなんです」
『…?』
男の言葉に反応を見せた音無が気になり、如月は横目でちらりと彼女を見た。そんな音無を鬼道が覗き込むように顔を動かした様子が視界の端に映り、如月の意識はそちらにも向く。
彼女も何かあるのだろうか――どこか悲しそうな表情の音無を気に掛けた時、男はハッとして「で、何か私達にご用では?」と訊ねた。目的を思い出した塔子が「あ、そうそう!」と声を上げる。
「実はこちらに、エイリア学園から襲撃予告が来たと聞きまして」
「襲撃予告? …ああ、そのことですか」
サッカー部員も生徒と同様に大して気に留めていなかったのか、彼は瞳子に言われてやっと思い出したような反応を見せた。これもサッカーで精神を鍛えていることによる賜物だろうか。
「俺達も、一緒に戦おうと思ってさ!」
円堂の言葉に、男は彼のことを見つめる。何か考えていたのか、暫く間を置いてから「そうですか」とだけ返した。
今これだけ世間を騒がせているエイリア学園のことを知らない筈がないだろうし、全国中継されていたのだから白恋中でのジェミニストーム戦のことも聞いたことくらいはあるだろう。
ジェミニストームを倒した雷門中も一緒に戦おうというのに、安堵の様子も喜びの様子も微塵も見られないとはどういうことか。
サッカーで精神を鍛えたおかげで、滅多なことでは感情が表に出ないとでもいうのだろうか。それとも、雷門中の力を借りずとも自分達だけで勝てる自信があるのか――如月があれこれ考えていると、男は口を開いた。
「では、どうぞ。ご案内いたします」
＊
「なるほど。お話はよく分かりました」
道場に着いた雷門イレブンは、漫遊寺イレブンにここへ来た理由を話した。向かいに座る影田の言葉に、円堂は「それじゃあ、俺達と一緒に戦ってくれるんだな!」と笑顔を見せる。
「…いいえ」
話の流れからは想定できなかった返答に、鬼道までもが「え?」と溢した。影田は「私達は、戦うつもりはありません」と続ける。
「戦うつもりがない…?」
「はい」
風丸の反芻に、影田は彼の目を見てはっきりと返事をした。
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作者名：一森 | 作成日時：2024年1月11日 1時
