【イナズマイレブン】氷雪のエクリプス Ⅱ (ページ29)

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第78話ページ29

今度は何事かと思って如月が音のした方を覗くと、塔子が穴に落ちていた。それを見た少年が穴の方まで戻って来ると、嬉しそうに「引っ掛かってやんのー!」と尻を振る。

この感じだと廊下のワックスも落とし穴もこの少年の仕業のようだが、どうしてこんなことをしたのだろうか。如月が疑問に思っていると、遠くから「木暮ー!!」と男の声が聞こえてきた。それに気付いた少年は身軽な動きで岩陰に身を潜める。彼の名前は木暮というらしい。

「まったく、しょうがない奴だ。ちょっと目を離したらすぐにサボって…」

サッカーボールを脇に抱えた長身の男は、そう溢しながらやって来て溜息を吐いた。如月に手を引かれて穴から出る塔子に気付いた男は、彼女に駆け寄ると「大丈夫ですか?」と目線を塔子に合わせるように片膝をつく。

「大丈夫大丈夫、これくらい!」笑い飛ばす塔子の寛大さに感謝を示すように、男は左手の平と右手の拳を合わせて軽く頭を下げた。塔子と如月が初めて見る独特な仕草を不思議そうに見ているうちに、男は立ち上がって廊下にいる雷門イレブンにも同じ仕草をする。

「申し訳ございませんでした。うちの部員が、とんでもないことをいたしまして…!」

「うちの部員?」

先程の少年の言動を詫びる男の言葉に気付き、一之瀬が「てことは、あいつ…」と溢した。男が地面に置いたサッカーボールへ、そういえば、と思い出したように塔子と如月が視線を向ける。

「「サッカー部!?」」

「ええ。木暮というんですが、それが困った奴でして…。周りは全て敵だと思っているというか……」

『え…』

気になる話に如月は男を見上げた。

彼の話によると、木暮が練習での自身のミスを相手の故意によるものだと言い掛かりをつけたために、サッカーの練習よりもまずは精神を鍛え直すことから始めた方がいいということになったらしい。
しかし、いくら説明しても木暮はその意図を理解するどころか自分だけが虐められていると決め付けているようだ。

「あいつにとっては、仕返しのつもりなんでしょう…」

男の話を聞き、漫遊寺サッカー部員の苦労を想像してか雷門イレブンは苦笑する。土門も「かなり性格歪んでるなあ…」と困ったように笑った。

『……』

木暮君の性格がそうなってしまったのは、何か事情があるのではないか――如月は疑問に思うが、会ったばかりで親しくもない間柄の人間にそこまで首を突っ込むのも野暮かと考えるのをやめた。