第37話 ページ38
『皆に…会いたいよ……』
腕の中に顔を埋める如月からぽつりと溢れた本音は、水の流れる音にかき消される。
自分から逃げるように去っておいて、会いたいというのはおかしな話だ。分かってはいても、ふとしたとき如月の頭に浮かぶのはお日さま園の皆の笑顔だった。
―――行こっ、加澄!
―――沢山食べろ。そして強くなれ。
―――なあ加澄、今日も一緒にサッカーやろうぜ!
―――ほら、加澄も行こう。
―――何かあった? 俺で良ければ話聞くよ。
落ち込んでいるとき、色々なところへ手を引いてくれたリュウジの眩しい笑顔。私の好きなご飯が出ると、自分の分から少し分けてくれた治の穏やかな笑顔。サッカーの楽しさをもう一度思い出させてくれた晴矢の楽しそうな笑顔。いつも皆から一歩引いていた私の隣を歩いてくれた風介の静かな笑顔。些細な変化に気付いて、そっと声を掛けてくれたヒロトの優しい笑顔。
全部大好きだ、と如月は思い出す度に噛み締めた。
また皆の笑顔を見たい。そのためにここにいる。分かっていても、昨日はジェミニストームを前に恐怖で試合に参加することさえできなかった。
『次の試合は、絶対に出なきゃ…』
如月はリストバンドを強く握り締める。思い出されるのは、ジェミニストームの攻撃によって傷付けられていく雷門イレブンだった。
ベンチから試合を見ることしかできない自分に苛立ったあの時の気持ちを忘れてはいけない。誰かが傷付くのを見ているだけなんて、もう嫌だ。
自分に喝を入れるように、如月は川の水を手で掬って顔を洗った。ぱしゃりと音を立てて、冷たい水が彼女の表情を引き締める。
『…よし』
彼女は小さく息を吐いて立ち上がった。左手首に戻ったリストバンドを見つめる瞳は、愛おしさと寂しさを帯びて揺らめく。
きっと大丈夫――言い聞かせるように心の中で呟くと、ゆっくりと瞬きをした。瞼から覗いた瞳は、先程とは打って変わって芯のある力強さを持っている。
如月は足下のサッカーボールを空高く蹴り上げ、自身も飛ぶとボールを川へと打ち込んだ。
『ふｯ…!!』
氷を纏ったボールが水面に激突した瞬間、何mかの範囲の川が音を立てて凍った。少し遅れて着地した如月がボールを取ると、凍った川は再び音を立てて今度は割れていき元通りに流れ始める。
「今のは何だったんだ…?」
「さあ…」
近くで特訓していた鬼道と染岡は滝の流れが数秒間途絶えたのを見て首を傾げるが、原因を知る由もなかった。
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一森(プロフ) - bizyuさん» コメントありがとうございます! そのように言っていただけて嬉しいです…! 更新頑張ります(^^) (12月25日 2時) (
レス) id: a9a946d0de (このIDを非表示/違反報告)
bizyu(プロフ) - とても面白くて一気読みしてしまいました！これからも一森さんご自身のペースで頑張って下さい(◍•ᴗ•◍) (12月24日 17時) (レス) id: 529a911b17 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：一森 | 作成日時：2023年9月16日 3時
