第36話 ページ37
「やったあ!! ……ん?」
円堂は喜びのあまり席を立ち上がった。しかし、自分以外に誰の声も聞こえないことに気付いてキャラバンを見渡す。塔子も如月と同様嬉しそうな表情だが、それ以外のメンバーはやる気を見せる円堂と目を合わせないようにしているようだった。その様子に円堂は「おい、皆?」と戸惑う。
「…いいわ」こうなることを見越していたのか、瞳子は音無から取り上げたノートをなんの躊躇いもなく背後に投げ捨てた。運転席の古株がしっかりと受け取ったのを見て、ナイスキャッチ、と如月は心の中で拍手を送る。
「だったら、自主トレをしてもらうわ。この山の自然を相手に」
「…監督のメニューよりはマシだろうさ」
豪炎寺をチームから外したことに納得していない染岡は、後ろを振り返って呼び掛けるように言った。彼と目が合ってしまった壁山は、気を遣うように「そ、そうっスね…」と同意する。
何はともあれトレーニングをすることが決まり、円堂は嬉しそうに拳を握った。
「よーし! 山だ、自然だ、特訓だー!!」
＊
各々が山の中でトレーニングをする中、如月は川の畔に来ていた。水の流れる音が耳に心地良く、彼女はその場に腰を下ろす。遠くの方で「あ〜ああ〜!!」と円堂の叫び声が聞こえ、くすりと笑ってしまった。それにつられるように、キャラバンの中で皆が楽しそうに話していた様子を思い出す。
『……』
不意にその時の疎外感まで思い出してしまい、如月の視線は自身の左手首に移った。普段着けているリストバンドは右手に握られており、数多の傷が目に入る。何年か前に治って痕になったものからまだ新しく瘡蓋ができかけているものまであるが、これらは全て如月が自ら作ったものだった。
如月はリストバンドを膝の上に置き、左腕をそっと撫でる。右手に伝わる凹凸の感触が彼女の心を宥めた。
雷門イレブンは優しかった。雷門中に向かうタクシーの中で抱いた不安など忘れてしまう程に。
出会って間もない自分のことを気に掛けてくれたことも、移動中気さくに話し掛けてくれることも、如月は嬉しかった。
しかし、彼らの優しさに触れる度に、如月は自身の輪郭が濃く強くなって雷門イレブンから切り離されているような感覚を覚えていた。
私はエイリア学園から来た人間で、それを隠して雷門イレブンとしてここにいる――如月の頭には常にこの意識が付き纏って離れなかった。光が強くなると影が濃くなるように、如月の意識もまた強くなっていった。
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一森(プロフ) - bizyuさん» コメントありがとうございます! そのように言っていただけて嬉しいです…! 更新頑張ります(^^) (12月25日 2時) (
レス) id: a9a946d0de (このIDを非表示/違反報告)
bizyu(プロフ) - とても面白くて一気読みしてしまいました！これからも一森さんご自身のペースで頑張って下さい(◍•ᴗ•◍) (12月24日 17時) (レス) id: 529a911b17 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：一森 | 作成日時：2023年9月16日 3時
