鶴と虎と。終【刀剣乱舞】 (ページ25)

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216#交錯と午時葵ページ25

(Side,折)

夢を見た。

小さい頃から、今までの思い出を振り返るような。

真っ暗な道に沿って、様々な思い出が動いている。

その中で、ふと目に留まったものがあった。

幼い頃に数度、

それっきり足を運んでいない人里離れた隠れ里でのこと。

「……“神奈備(かんなび)の里”か」

“神奈備の里”というのは、

十束の中でも特殊な人材が隔離される里。

主に“篠馘(ささくび)”という家柄のものが、

必然的に多い。

しかし、年に数度開催される会議の議場は里なのだ。

“祈与様は愛らしくて、柔らかで……霊気もとても澄んでいるのですね”

其処には俺が昔から慕っていた女性の術士がいた。

不幸にも“篠馘”の生まれで、

しかもあまり宜しくない立場に立たされているヒトだった。

目元には包帯を巻き付けられ、封印の術符。

そして、その上から面布を着けていた。

“〝午時葵(ごじあおい)〟の姫様の霊気、俺も好き!!”

“……嬉しいことを言って下さるんですね”

銀糸の様な長い髪に、

たまに香る白檀(びゃくだん)の薫りが好きだった。

彼女は周りから“午時葵の君”と呼ばれる。

“午時葵”というのは花の名前で、俺と同じように、

それは“飾名(かざりな)”として呼ばれる。

今は呼ぶにも何処かくすぐったくて、

“おひいさん”なんて口にしている。

“私はいつか、棄てられるか、殺されるか……はたまた贖物(あがもの)として宛がわれるか”

“じゃあ、俺と一緒! 俺も守篠の生贄に選ばれたんだ。神様に貰われるんだって!”

“そう、ですか。祈与様のような方が選ばれてしまうなんて……”

俺の師の様な人。

彼女は誰よりも俺のことを心配した。

しかし、審神者として務めを果たすようになってから、

彼女の話は全く耳にしていない。

「贖物として、ある意味祀られているんだ。

　そう悪い扱いはされないはずだとは思うけど」

もう会えないと思うと、もの淋しかった。

(主君、落ち着いたみたいですね)
(よ、良かったです……)

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*神奈備の里
人里離れた隠れ里
十束の関係者や、主に血統的な事情で虐げられる“篠馘家”の者が多い

*篠馘家
十束が一柱、菊花(きっか)家の第一分家
血統的な事情で虐げられる一族

*午時葵の君
篠馘家にて最も忌み嫌われる者
祈与(折)の師の一人でもある