214#悪事と好意 ページ23
(Side,A)
少し長めの話し合いの結果、決行は3日後となった。
術式を書くのに時間がかかるらしいのだ。
「複雑な構造しやがって……書きずらいったらありゃしない」
「? 主が考えたものじゃないのか」
「山姥切には見せたことあるかもなんだけど、
あれ、術式の本に書いてあったやつ。
あれをちょいちょい弄って、
応用できるようにして別術式と結合させたりしてるんだ」
「また面倒な……」
折様の手元には分厚い書物が置かれ、
“うーん”と考えながらその手を動かしていた。
「あっ、間違えた。A、水差し」
『え、あ、はい!』
「危ない危ない。もっと集中しないとな……」
『折様、決行の日急がなくてもいいんですよ?
お体を壊されては元も子も御座いません』
「平気。まだやる」
『折様……』
折は間違えた箇所の血液を布で拭うと、
再び複雑なものを描き始めた。
書き終えた場所は既に赤黒く変色し、どうみても怪しい。
「大将、これ、すごい悪いことしてる風だね」
「信濃の言う通り、端から見れば悪いことさ。
俺だから許される」
「……ねえ、大将。嫌だって思ったことないの?」
「ないね。昔からこう育ったんだ。
本丸の仲間は家族。家族といられるなんて、幸せだろ」
ニコッと満面の笑みを浮かべる折様。
本当に、幸せなんだ。
そう、思える笑顔だった。
その時、大きな影がかかった。
「嬢ちゃん、昼飯だとよ。長谷部たちが呼んでたぞ」
『日本号様! はぁ、少し驚きました』
「おー、おー、偵察は苦手か?」
「何言うてるんばい、おいしゃん。
Aしゃんは
「うお!? そうなのか?」
『えぇ。
他の太刀の皆様と比べると幾分か得意な部類に入るそうです』
博多の手を引き、日本号様と話しながら厨へと向かう。
折様によると、私は偵察と機動が優れているらしい。
「足は早かし、指示も上手で美人で優しかし、
いち兄もすいとーになるんは当たり前ばい!」
『博多……』
「人妻か……」
『日本号様まで包丁みたいなこと言わないで下さい!』
(……何故、Aはむくれているんだ)
(おいしゃんの悪か)
(貴様……)
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作者名：久遠深ヶ | 作成日時：2017年1月15日 17時
