206#判断と気掛 ページ15
(Side,A)
明日は、期日。
昨晩は遅くまで業務をしていたらしく、
折様は眠っている。
「すぅ……」
『……』
「……今日が、最後ですね」
『えぇ』
私は不安だった。
彼の名はもう知ってしまった。
隠すということになっても、
大掛かりになるのは目に見えている。
「儀式については心配ありませんよ、きっと。
三条の方々が検討していますし」
『……』
「A?」
『いち様、私……私、
折様の真名を先日受け取ったんです』
「!?」
いち様は驚きのあまり、手に持っていた書類を落とし、
ぶちまけてしまった。
そして、そのまま硬直している。
『い、いち様? 書類、撒いちゃってます』
「あ、あぁ……」
取り敢えず、書類を拾い上げ、
片付け終えるといち様は再び口を開いた。
「何故、主は……?」
『今日お話しするそうですが……』
「そう、ですか」
まさか、神への供物……、
贄となる存在だなんて誰が想像しようか。
しかも、家のしきたりというのが……。
『幸せ者ですね、私たちは』
「え?」
『とても素晴らしい主に出会えて、
こうして夫婦となって……』
様々なことを思い返すと、胸が熱くなる。
最初は上手く戦えず、
怪我をしては折様に“次は大丈夫。
Aは強いよ”と励まされていた。
「別れではないのですから、案ずることはありませんよ」
『折様はあまりにも現世に未練がないから……。
それが気掛かりで』
「お父様と妹君の件、ですか」
『折様はとても優しいから、
きっと我慢してる部分もあるのではないかと思って』
会ったこともない妹君に、当主は任せるそうだ。
いや、任せざるをえないとのことだった。
本家は力も重要だが、やはり血統が一番らしく、
女であろうとそれは揺るがないとのことだった。
その時、小さな呻き声が聞こえた。
「Aと……一期?」
「おはようございます。主殿」
『おはようございます。折様。
お加減はどうですか?』
未だ眠そうな瞼を擦る折様。
「んー、大丈夫。しまったなぁ、
もうすこし早く起きようと思ってたんだけど……」
『申し付けて下さればお声をかけたのに』
「昨晩はそれどころじゃなかったからな。
ま、いいや。着替える」
「では、廊下でお待ちしています」
「おう」
(さてと、どう説明するべきか)
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作者名：久遠深ヶ | 作成日時：2017年1月15日 17時
