32 ページ30
きん、と冷えた空気が肺を刺す。
枝枝の間を風が吹き抜けひゅうひゅうと乾いた音をたてた。
まるで肋骨だな、とAは思った。
冬空の下、Aと百鬼丸が並び立ち尽くしていると見ている者になにか薄ら寒いものを与える。
貴「また一雨ありそうだ。どっちに行こうか」
百「あそこ、村がある」
貴「本当だ、結構大きいな」
人になるための手本が必要だから、村や街にはよく立ち寄る。
この時もそうだった。
農具や武器を振りかざした村人に囲まれた。
男「人のなりをした化け物だ！」
男「殺せ！」
男「村に一歩も立ち入らせるな！」
武器や松明を掲げた村人がじりじりと包囲網を狭める。女子供が怯える。
何故知られているのかはわからないが、とにかくまずい状況だ。
百「こいつは誰も傷付けたりしない！」
誰も信じようとしない。ますます輪は狭まるばかりだ。
貴「蹴散らすか。できるかな」
百「ああ」
鞘から抜かずに。包囲網を突破し、駆け出す後ろから村人たちが追って来る足音がする。
去るのだから追う必要ないだろうに。
突如、ぐらっと足元が揺れたかと思うと、化物に行手を阻まれた。
瞬時に理解する。ああ、今までと同じ過程を辿った村だったのだ。
だとすればこいつを倒せば、この村は。
貴「足止めする、後で合流しよう」
百「何を言って、！」
貴「頼むよ。同じ轍を踏みたくないんだ、協力してくれ」
冬は姿を隠す木立や藪が少ない。できるだけ遠くに行ってもらえれば俺の方はどうとでもなる。
百鬼丸が走り去っていくのを視界に捉え、化物や村人と向き合った。
骨格が軋む音を立てて変化する。鱗を重ねた身体を盾にして立ち塞がった。
貴「何であろうとここは通させない」
百鬼丸が人の心を得るため、だと。大層なことを言う。結局、百鬼丸と自分の心を傷つけないための都合のいい口実を作り上げただけだ。
どうせもう人間じゃないからこの傲慢を突き通させてもらう。
心配せずとも、必ずお前のもとに帰るし心だけは人であろうと努めてみせる。たとえそれが何の目的も意味もない無駄な行為でも。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 5人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
藤宮(プロフ) - 有希さん» はい。頂いたレスで集大成だと仰っていたので描きたいなと。夕陽ちゃんの男前さより寄り添う感じが強くなってしまいましたが…完結祝いありがとうございます、危うくうちの子なのに恋しかけました。 (2019年7月26日 17時) (
レス) id: f3757ca821 (このIDを非表示/違反報告)
有希(プロフ) - 白頭鷲ですか！？ありがとうございます。私も椿くん描きました。藤宮さんの作品の紹介ページにはりました。よかったら見てくださいな。 (2019年7月26日 8時) (レス) id: c151be2953 (このIDを非表示/違反報告)
藤宮(プロフ) - 有希さん» 遅れ馳せして申し訳ありません。祝完結イラストこちらに上げました。安定の低クオリティですが、気に入っていただけると嬉しいです。完結おめでとうございます。 (2019年7月25日 22時) (レス) id: f3757ca821 (このIDを非表示/違反報告)
有希(プロフ) - 嬉しい言葉をありがとうございます。姫抱き感謝です。男前意識してます。か弱くって守られてる子は女としては魅力的ですが、人としてはかっこ悪いと思うので。自分の頭で考えて動ける子目指してるので、そう言っていただけて嬉しいです。ぜひ椿くん描かせてください。 (2019年7月13日 19時) (レス) id: c151be2953 (このIDを非表示/違反報告)
有希(プロフ) - ほんとあなた好き。一番読んでほしいところをわかってらっしゃってて。白頭鷲の話が私の集大成みたいなものです。箸休めみたいに入れましたが。鵜の話まで…！あれ実話です。２年も前に見ただけなのに未だに忘れない節回し。せっかくなので投入しました。安定の長文 (2019年7月13日 18時) (レス) id: c151be2953 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：藤宮 | 作成日時：2019年5月20日 16時
