15 大成功 ページ17
「かわいそう……」
そう呟いたロニーの瞳から涙がこぼれたのをマルは見逃さなかった。
「うん、ほんとにね!」
すかさずマルはそれを拭い、さりげなくクッキー生地の中に入れた。
「来てくれてありがとう、今夜はぐっすり寝て休んで」
ロニーを調理室のドアのほうへ連れて行き、「良い悪夢を!」と見送ってからマルは四人を振り返った。
「よし! みんな、クッキーシートを出して!」
その翌日。
「ハーイ、ベン!」
「やあ、マル!」
マルが話している間、ジェイ、イヴィ、カルロスの三人はこっそりとベンに近づいていった。Aも下のピクニックテーブルで女子たちと談笑しながらさりげなくそちらに目をやる。
「ねえA、今度のデートにつけていくマニキュア、どっちがいいかしら?」
テーブルの上にピンクのマニキュアが並べられる。一見すると同じ色だが……。
「こっちはオレンジ寄りで、こっちはラベンダー寄りか」
「そう! ほんとに微妙な違いだから誰も気づいてくれなくって」
「じゃあ、こっち」
「ありがとう!」
「A! ちょっと相談いい?」
「あ、Aいた! ねえ、髪型のことなんだけど……」
集まってくる女子生徒たちの声が行き交う中でもAの耳はベンとマルの会話を聞き取っていた。
「君の名前を歌いたい気分だよ! マル〜!」
本当に歌いかけたベンの口を慌ててマルがふさぎ、「試合に行こうか」とジェイが彼を連れて行く。惚れ薬は無事に効いたようだ。
その後は怖いくらいに全てが上手くいった。
まずトーニーの試合ではジェイとカルロスが活躍し、見事優勝。そしてベンはなんと皆の前でマルに告白し(歌まで歌った)、二人はカップル成立となった。
「オードリー、気の毒だな」
Aは気の毒という言葉が自分の口から出たことに驚いた。そんな感情は捨てたはずなのに。
オードリーはチャドと付き合うことにしたようだが、彼女がベンのことを心から愛していたことは知っている。それだけでなく小さい頃から家族(主に祖母)の期待を背負い、王妃になるために努力していたことも、彼女を観察してきたことで分かった。
それにしても……。
「少しは疑いなよ……」
ベンが大衆の前で女の子に恥をかかせるようなひどい人間ではないことくらいAも分かっていた。それなのに誰もおかしいと思わないのは危機感が薄れているのか、ベンのことをちゃんと見てこなかったのか。
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闍弥嵩 李(プロフ) - 夢さん» ありがとうございます! 申し訳ないのですが、この作品で完結させたいと思っているので続編の予定は今のところありません……。 (12月8日 10時) (レス) id: 6a8608f031 (このIDを非表示/違反報告)
夢 - こんばんは。ディセンダントがめっちゃ好きでその中でもこの作品が一番好きです!ディセンダント2とかって書けたりしますか?できればお願いします! (12月7日 21時) (レス) @page30 id: b05a1258a4 (このIDを非表示/違反報告)
闍弥嵩 李(プロフ) - ち の ち ゃ ん 。さん» ありがとうございます!めっちゃ嬉しいです! (2022年9月25日 18時) (レス) id: d43cc1ea1d (このIDを非表示/違反報告)
ち の ち ゃ ん 。(プロフ) - うんわ好き。すきむりすき (2022年9月23日 10時) (レス) @page16 id: a284f3be6e (このIDを非表示/違反報告)
闍弥嵩 李(プロフ) - 百華夜さん» ありがとうございます! クールな夢主さん書いてみたかったんです! (2022年9月13日 20時) (レス) id: d43cc1ea1d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:闍弥嵩 李 | 作成日時:2022年8月17日 16時