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ページ35

-JH-


JH「A」



見慣れた後ろ姿に声を掛けるも、振り返らずジッと景色を眺めている

昔から、出逢った頃からそうだった
悩んだり、落ち込んだり、上手くいかない事があったりした時
彼女はいつも、非常階段でぼんやり外を眺めては、時折涙を流す

いつからか、泣くことはしなくなって、今も一滴の涙すら流さないけれど、それがAのある種の決意であることを知ってるのは、俺と先輩方だけだろう



「…ごめんね、変なこと言って」

JH「いいよ別に、俺が地雷踏み抜いただけ」

「ううん
分かってたんだよ、あの時なんで連絡して来なかったのか」



退社したあの日
レッスンを共にしていた仲間には、すぐに報告がされたし、多分Aの耳にも入っただろう
担当ヌナが一緒だし、ヌナは俺とAが親しいのを良く理解してくれていた

恋愛禁止を掲げているここで、男女の練習生が親しくなることは、事務所的には御法度だろう
それでも容認してくれたのは、俺達が互いに恋愛感情を持たず、ひたすらに周りから言われる、あの“双子”になりきっていたからで

そんな彼女に、退社してから一度も連絡しなかったのは
俺のことを忘れて欲しかったからだ

どれだけの時間が掛かろうと、彼女はデビューする
そう感じていたからこそ、忘れてくれと願った

練習生は山程いて、その中の特別が与えられた1人だったとしても、夢が叶えられないかもしれない瀬戸際に立つ俺は
足枷になってしまうかも、なんて、傲慢にもそう思えたから



JH「…まぁバレてるとは思ってたよ」

「そりゃ分かるよ、ジフニのことだからね
考えてることくらい、見抜けなきゃ
アンタの隣に、胸張って立てないから」

JH「それはこっちの台詞なんだよなぁ…」

「違うよ
別に、アイドルに固執してた訳じゃないからさ、私
でも、ジフニはずっと努力の人だから、アイドルとしての自信は持てないけど、こうでなきゃ私が私を赦せない」



彼女は稀に、小難しいことを言う
才もあり、神に愛されたとしか思えないAだけど、悩むことは多い
それを口に出すときはいつも、誤魔化す為に、わざと難しく言葉を選ぶ癖がある

俺からしてみれば慣れたもので、言わんとしてることくらいはすぐに分かってしまうけど


風に拐われた髪が顔を隠すせいで、表情から何かを読み取れはしないけど
何処か穏やかに聞こえる声から、イェダミが相当優しく接したことは容易に想像出来た

そんなことにすら、悔しさを覚えてしまうのだから
もう今は、友愛等と言っては要られない感情を抱いてしまってるのは感じている

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作者名:そると。 | 作成日時:2023年10月12日 22時

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