二兎を追う者は一兎をも得ず ページ10
*
「兎は臆病なんだって」
「きみと同じだね」
自室で参考書を黙読していた僕の肩に、それ、もといヒュアキントスは唐突に現れた。
まるで世間話をするかのように何気なく、そして僕の傷口を抉るように軽はずみな声色でそう言った。
僕の肩に這いずり、センジュナマコ特有と滑りとひんやりとほのかに冷たい感触。それが少し擽ったい。
それは真夏の今日には妙に、それでいて不気味なほど気持ちが良いのはどうしてか。
得体の知れないそれを叩き落とそうとすれば消え、次はその手の甲に神出鬼没として現れる。
その一連の流れに何だか遊ばれているような気もして気に食わない。
…今思えばそのときから僕はこいつが苦手だった。
「僕が弱いとでも言いたいんですか」
「嗚呼、そうとも
きみは強がってるだけ」
僕を嘲るその言葉。同時に事実を突きつけられる。
そう、それは紛れもない事実なのに……いつの間にかムキになって参考書を床に投げつけていた。
「認められたいという目をしている」
「…目的はなんです」
……何を根拠に言っているのだろうか。心底不愉快だと睨みつけても何も反応を起こさない。
むしろこいつに表情があったら、きっと目を細めて微笑んだに違いない。
何とも見え透いた煽りだが如何せん本性を引き出される手前で冷静になれなかった。
「目的も何も、ぼくはきみの力になりたいだけ
今のきみはとても苦しそうだ、可哀想に」
「優等生のレッテルが足枷となっているね」
「否定、非難、幻滅
きみはそれらに怯えていながらも自分を守るために演じている」
「『期待なんて
はたして本当に可哀想だと思っているのだろうか。
それにしては飄々とした態度にしか見えない。
だけど、つらつらと並べるその言葉はまさに僕の…俺の本音に間違いなかった。
「辛いね、きみはよくやってるよ」
「でもそれじゃあ、いつかきみは壊れてしまう」
「それは駄目だ
若者の未来が無くなるなんて酷すぎる」
……洗脳とは分かっていても、既に僕はこいつに狙われた時から罠に掛かっている。
上辺だけの同情。褒めてもらいたい、自分を高く評価してもらいたい、好きになってもらいたい…そんな承認欲求に蝕まれる。
「そんな可哀想な若者を救うのが、ぼくの目的」
「魔法青年になればきみは」
認められるさ
……嗚呼、僕は馬鹿だ。
そんな勧誘なんて何の保証にもなりやしないのに、いつの間にか縋るように左手を伸ばした。
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甘夏蜜柑(プロフ) - Melcheさん» 大丈夫です！お待ちしております！ (2021年4月8日 22時) (
レス) id: 5d12f48d3e (このIDを非表示/違反報告)
Melche(プロフ) - 甘夏蜜柑さん» ありがとうございます!!ボードにお邪魔しても大丈夫でしょうか……！ (2021年4月8日 20時) (レス) id: c083f040c8 (このIDを非表示/違反報告)
甘夏蜜柑(プロフ) - Melcheさん» 関係のお誘いありがとうございます、是非とも組ませていただきたいです…！ (2021年4月8日 20時) (レス) id: 5d12f48d3e (このIDを非表示/違反報告)
Melche(プロフ) - 失礼します~！良ければうちの子と関係組みませんか！ (2021年4月8日 19時) (レス) id: c083f040c8 (このIDを非表示/違反報告)
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