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「……じゃあ、言い方変えるよ。俺が乾かしたいから、来て」
「うっ……ずるいですよ……」
「ずるくて結構です。ほら、遠慮しないで」
俺が乾かしたいから、と言われて断るのもまた気が引けて、渋々彼の足の間に腰を下ろす。こんな言い方をされて断ったら、それはそれで罪悪感でノックアウトしてしまいそうだ。
どうやらその判断は間違っていなかったようで、お気に召した様子の彼は満足そうに鼻唄を歌いながら私の髪を丁寧にドライヤーで乾かし始めた。
自分で乾かすのとはまた違って、少し遠慮がちな手が頭皮に触れる度、妙にドキッとして誤魔化すように下唇を噛む。そんな私の様子に気づいているのか、いないのか。彼は後ろから私の顔を覗き込むと、「緊張してる?」なんて言ってふっと笑みを浮かべた。
いや、その距離でのその笑みはずるくないですかね。別の意味でノックアウトしそうなんですが。
「……ふ、福良さんのせいですよ……」
「ええー、俺のせい?俺ただ髪乾かしてるだけなんだけどなー」
どことなく楽しげな声音に、楽しそうでなによりですなんて思っていると、突然まだ全部乾ききってはいない状態でカチッとドライヤーのスイッチが切られ、後ろから優しく包み込まれるようにして抱き締められる。途端にふわりと鼻腔を擽るおんなじシャンプーの匂いが、どうしようもなく私の心を締め付けた。
本当に突然の事で、へっ、と可愛くない声を出すも、彼は気にしてないように首もとに顔を埋める。頬や首筋に触れる吐息と髪がくすぐったくて離れようとするも、お腹に回された腕がそれを良しとせず、寧ろより彼と体が密着する。
ああああ、待って、待って、福良さんの声が近い。
「そーんな可愛い顔しないでよ」
「ひえっ」
いつもより低い声で囁かれて、思わずビクッと肩が跳ねる。だ、駄目だ。こんなの、私の心臓がもたない。
「ふ、福良さっ、んっ」
心臓が悲鳴をあげ始めたので、仕方なく見せたくなかった真っ赤であろう顔を後ろに向ける。が、どうやらそれは彼の思う壺だったようで、彼の名前を言い切る間もなく口を塞がれた。
いつの間にか後頭部に添えられていた手に頭を引き寄せられて、啄むだけだったキスが、次第に深く、濃厚なものに変わる。あああ、駄目だ、まだこのキスには慣れない。
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すあま(プロフ) - 「……因みに、嫌なら本気で止めないと、ほんとに食べるよ?好物を目の前に差し出されて大人しく出来るほど、俺お利口じゃないんだから」ってセリフがやばすぎる、めちゃくちゃ想像に容易い、、ほんとに言いそうで凄いですね、、想像力が (2021年9月24日 0時) (レス) @page17 id: b33cbc8b26 (このIDを非表示/違反報告)
すあま - うわおおあ、、占いツクールでコメントするの初めてなんですが、コメント失礼します。。脳内のセリフ(?がオタクっぽくて(?)めっちゃ自分が言ってるみたいでやばいですねこれ最高ですね、(語彙力 (2021年9月23日 23時) (レス) @page3 id: b33cbc8b26 (このIDを非表示/違反報告)
白菜(プロフ) - 浴衣さん» コメントありがとうございます!ko-chanの「俺じゃ駄目?」と結婚式のお話は私の中でも結構気に入ってまして、そのように言っていただけて嬉しいです!こちらこそ暖かいコメントありがとうございました! (2020年6月19日 19時) (レス) id: 367472b3a3 (このIDを非表示/違反報告)
浴衣 - 何回読んでも、こうちゃんの「俺じゃダメ?」というお話のところと結婚式のお話で涙腺が決壊します。素敵なお話をありがとうございます (2020年6月18日 9時) (レス) id: f3992de0f3 (このIDを非表示/違反報告)
白菜(プロフ) - 。さん» 返信遅くなってしまってすみません!お褒め頂き、ありがとうございます!今順番に書きたいものを書いていっているので、そのうちまた新しいfkrさんのお話も書いていきたいと思います!コメントありがとうございました! (2020年6月11日 17時) (レス) id: a14ef8aee6 (このIDを非表示/違反報告)
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