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咄嗟にこうちゃんに「恋してるんですか」と聞かれて頷いてしまったが、正直なところ分からなかった。この感情が本当に恋なのか。そう錯覚しているだけではないのか。ただ、好きになってもらったから、好きになろうとしているだけなのではないか。キスをしてしまった時点で、もう答えは出ているのかもしれないが。
……彼女にキスをしてしまってからのこの数日間、いろんな事を考えた。恋という単語がゲシュタルト崩壊してきて脳内で勝手に鯉に変換してしまうくらいには、考えた。けれど答えは、出せずじまい。
『ん、電話?』
そんなある日、珍しくこうちゃんから電話が掛かってきた。こんな夕方に珍しい、と思いながらも応答するが、お互いに名乗って直ぐに訪れる沈黙。何気なく彼が話し出すのを待ちながら、視線を窓の外に向ける。強く叩きつけられる雨粒を眺めて、まだ当分止みそうにないなとつい数分前にも思ったことを再度思うと、電話越しに彼が息を吸った音が聞こえた。
≪言いましたよね、俺。早くしないと、奪うって≫
『え?』
確かに、言った。あんまり遅いと俺が奪う、と。それを今言うってことは、今彼の隣には、星宮さんが居る?
別に特段不思議なことでもない。彼と彼女は親友と呼べるほどの仲だ。しょっちゅう一緒に飲んでいるらしいし、遊びにもよく行くらしい。なのに、今は……嫌だと、思ってしまう。
『……こうちゃん、それ、どういう意味』
≪……奪われなくなかったら、早く守りに来てくださいよ。住所は送ったんで≫
俺の問いには答えず、それだけ言うと彼は通話を切ってしまった。スマホを持つ手に、力がこもる。
……あぁ、そうか。悩む必要なんて、無かったんだ。
彼が送ってきてくれた住所とその場所の写真を確認して、ポケットにしまう。そしてすぐに玄関に立て掛けてあるビニール傘を手にとって、靴を履くのもそこそこに、家を飛び出した。
たとえ相手がこうちゃんでも、たとえ仲間の喜ぶ顔が見れたとしても、俺は、奪われたくない。彼女を、彼に渡したくない。この感情は悩まなくたって分かる―――間違いなく、恋だ。
『―――ごめん、こうちゃん。この子、俺のだから』
目的地についた俺は、無駄にかっこなんかつけて星宮さんを片腕で抱き寄せて、切ない笑顔を浮かべるこうちゃんにそう宣言する。ごめん、こうちゃん。この子は、君には渡せない。
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すあま(プロフ) - 「……因みに、嫌なら本気で止めないと、ほんとに食べるよ?好物を目の前に差し出されて大人しく出来るほど、俺お利口じゃないんだから」ってセリフがやばすぎる、めちゃくちゃ想像に容易い、、ほんとに言いそうで凄いですね、、想像力が (2021年9月24日 0時) (レス) @page17 id: b33cbc8b26 (このIDを非表示/違反報告)
すあま - うわおおあ、、占いツクールでコメントするの初めてなんですが、コメント失礼します。。脳内のセリフ(?がオタクっぽくて(?)めっちゃ自分が言ってるみたいでやばいですねこれ最高ですね、(語彙力 (2021年9月23日 23時) (レス) @page3 id: b33cbc8b26 (このIDを非表示/違反報告)
白菜(プロフ) - 浴衣さん» コメントありがとうございます!ko-chanの「俺じゃ駄目?」と結婚式のお話は私の中でも結構気に入ってまして、そのように言っていただけて嬉しいです!こちらこそ暖かいコメントありがとうございました! (2020年6月19日 19時) (レス) id: 367472b3a3 (このIDを非表示/違反報告)
浴衣 - 何回読んでも、こうちゃんの「俺じゃダメ?」というお話のところと結婚式のお話で涙腺が決壊します。素敵なお話をありがとうございます (2020年6月18日 9時) (レス) id: f3992de0f3 (このIDを非表示/違反報告)
白菜(プロフ) - 。さん» 返信遅くなってしまってすみません!お褒め頂き、ありがとうございます!今順番に書きたいものを書いていっているので、そのうちまた新しいfkrさんのお話も書いていきたいと思います!コメントありがとうございました! (2020年6月11日 17時) (レス) id: a14ef8aee6 (このIDを非表示/違反報告)
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