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あ「…それから、気付いたら病院だった。運よく忘れ物を取りに来た梓が、すぐに救急車を呼んでくれて助かった」
そこまで話して、小さく深呼吸をした。
風磨はその腕に私を閉じ込めながら
ツラい場面に何度も抱きしめてくれた。
それが、私に「最後まで話さなければ」と思わせる。
ごくりと息を飲んで、続けた。
あ「…それから1年ぐらい病院にいたの。記憶も曖昧でよく覚えてないけど。だから1つ下の学年にいる。私のことを勝利以外誰も知らない公立校にいる。…慣れないところにいると、あの時みたいな夢を見るから眠れない」
そこまで言って、私は風磨の言葉を待った。
なにも言わない風磨が、ずっと気になる。
…やっぱり、離れていってしまうのかな。
でも、それは仕方のないことだと思う。
過去は消せないし、私が悪い。
闇に負けてしまうぐらい弱かった私が悪い…。
あ「…婚約…の話が復活したのは、私が言ったから。私が“桐生”になんでもいいから居場所がほしかったから…」
でも、それが風磨を巻き込んだ。
私は結局、誰かの気持ちを踏みにじってしまっている。
…私は…
風「気に入らねぇ」
重い沈黙を破って、風磨がぽつりと呟いた。
あ「…ごめん」
それしか言えなくて、言葉に詰まった。
当たり前だ。
だって私は、風磨を巻き込んでいるに過ぎない。
誰だって怒るに決まってる。
離れていかないでくれればいいと思うけど
そんなもの、無理な話にもほどがある。
…笑わなきゃ。
謝って、「もういいよ」って言って
婚約も破棄にしてもらって
…もう二度と、会わなければいい。
そうすれば忘れられる。
全部全部、笑顔の奥にしまいこんで
笑ってお別れを言って
気持ちも全部忘れてしまえばいい。
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作者名:北斗七星 | 作成日時:2015年7月15日 1時