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「___遅い…」
ドーナツ店に入って休憩すること早二十分。戌五つ刻をとうに過ぎた
今日の夕飯にしよう、と自分もドーナツを二つ食べたは良いけれど、俺は甘い物を別に好きではない
嫌いでもないから食べるけど、自ら注文することはないのだ。だからAさんと出逢ってからはよく口にするようになった
っていやいや、そんなことは如何でもいい
御手洗に行くと云って席を立ったAさんだが、十分以上経っている気がする
腹を痛めている様子は無かっ…あ、否。あの人隠すの上手いしな。俺が気付かなかっただけかも。
「あの、すみません」
御手洗に入ろうと、俺が座っている席を通り過ぎた女性に声をかける
店員でもないのに声をかけられたということを不審に思ったのだろう。彼女は怪訝な顔をして振り返った
「呼び止めてすみません…御手洗に連れが入ってるんですが、中々出てこなくて。ご迷惑でなければ、心配していることを伝えてくれませんか?」
「ああ…良いですよ、判りました」
笑顔を向けて返事をし、女性は御手洗に入って行く
彼女の心の声が聞こえた気がした。「まぁ、男一人でドーナツなんか食べる訳ないよね。ぼっちだったらドン引きだし」と。
恥ずかしすぎる……女性の事情に首を突っ込んじゃいけないのは判ってるけど、ほんと何してんだよAさん…早く戻って来て呉れ…
憂鬱になり額を押さえて溜め息を吐いた時は、控えめに声が掛かって顔を上げた
先程の女性だ。俺が彼女に用件を伝えてから未だ数秒しか…ん?と云うことは、用を足さなかったのか?
心配している旨を伝えて呉れるだけで良かったのに、態々「伝えましたよ」と報告に?否々ないだろ。
不思議に思い乍らも聞く体制を取った俺に、予想しなかった言葉が降ってきた
「あの……誰も、いませんでしたけど…」
「……………は?」
心の中でその素っ頓狂な声を出した筈だが、実際に口から洩れた
え?いない?出口に向かうにはこの席を通るしかない
じゃあ遼の異能?否、これもないな。慥かに遼の異能は
残る可能性は単純だ
「窓、ありました?」
「え?あ、ありました…けど…」
「ありがとうございました。これ、どうぞ食べてください」
「は、はぁ」
Aさんが残したドーナツを指差して云い、出口に向かう
想いを寄せる彼女は電話に出なかった
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夢蝶蘭(プロフ) - 知佳さん» わざわざありがとうございます!是非使わせていただこうと思います! (2020年5月18日 23時) (レス) id: 6710be5598 (このIDを非表示/違反報告)
知佳(プロフ) - 横浜の街のタワーは、展望台になりますが、マリンタワーというのがありますよ♪ (2020年4月4日 0時) (レス) id: 3e74e0ac2c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:夢蝶蘭 | 作成日時:2018年4月2日 23時