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五頁目 ページ6

「また怪我をしてる。」

酌をしようと近寄った私の手を、童磨様が軽く触れる。
氷のような冷たさに、思わず手を引きそうになった。
けれどそんな内心はおくびにも出さず、私は無言で徳利を引いた。

「前も違う所に怪我してたよねえ。俺は結構心配してるんだぜ?Aちゃん。」

「少し掠った程度の傷…貴方様がお気になさる事ではありませぬ。」

私が言っても、彼は笑顔のまま、けれど全く手を離そうとはしない。
ああやはり、彼が私の本名を呼ぶのには、少し訝しさを覚える。

彼の腕は、私の銀刺繍を施した着物の袖を捲ろうと少しずつ、そっと上がってくる。

「前に俺の所に来た子も、こんな傷があったよ。可哀想に…」

「…また来て下さるのなら、善くさせて頂きます故…どうぞ御手をお引きになられて下さいな。」

「でもなぁ、俺は優しいから放っておけないぜ。ねえ、話してごらんよ。」

駄目だ。
見られてしまう。

「童磨様。私も、今夜は前と同じ別れ方をしたくありませぬ。」

掴まれていない方の自由な手で、彼の寒えた手を包むようにして握る。

彼の指はしなやかで、薄青に塗られた爪は恐ろしい位に鋭利だ。
綺麗だけれど、何とも人間離れしている。

「そうかい。まあそんなに見られたくないなら、無理矢理とは言わないさ。俺は優しいからな!」

「有難う御座います。」

「でも、辛くなったらいつでも言っておくれ。ああ勿論、また君に会いに来た時にねぇ。だってまだ”裏“なんだろう?」

さり気ない風に私の手を退かすと、童磨様は私の腕からようやく手を離した。
私は安堵する。
日々少し増えるこの傷を、誰にも言ってはいけない。
楼主にも、あの客にも、そう言われている。

もし誰かに言えば、私がこの遊郭で一番の花魁になる事は出来なくなってしまう。


彼は徐ろに扇を取り出すと、口元を覆った。


「…ご馳走に………」


相変わらず、細められた彼の瞳は、室内の灯で虹色に揺らめく。

彼が扇の下で何かを呟いたように聴こえた。
でも私は、その声を確かには耳に入れなかった。









「あ、そうだ。その龍雲柄の簪、綺麗だねぇ。」

夜明け前。
去り際に、童磨様にそう声を掛けられた。

私の髪は豪勢に飾られているけど、今彼が言ってくれた簪は、あまり目立たないように髪にさしている。それでも、私が一番気に入っている簪だ。

童磨様はどうも、私の事を余りにも多く知っている。

「お褒め頂き、光栄ですわ。」
「じゃあね、Aちゃん。」

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ミョンヒ - 怖いけど見事なゴジックロマンで、素晴らしいです。とんでもない相手に魅せられてしまった、危なさがよく出ておりますね! (2021年10月24日 21時) (レス) @page14 id: 8a4f993d4c (このIDを非表示/違反報告)
るい(プロフ) - おもしろいです!続き待ってますT_T (2021年7月15日 8時) (レス) id: 4cd171caaf (このIDを非表示/違反報告)
pooky - とても面白いです!頑張ってくださいね! (2021年3月7日 16時) (レス) id: 012e567f90 (このIDを非表示/違反報告)
やっぽ - はじめまして!この作品を何度も読み返してしまうくらい好きです!更新待ってます!! (2020年1月5日 12時) (レス) id: dfe50726da (このIDを非表示/違反報告)
ツナ缶 - 夜月さん» 感想ありがとうございます!恐らくお察しの通りです(色々と)笑 (2019年12月6日 0時) (レス) id: 837e8cc148 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ツナ缶 | 作成日時:2019年11月8日 22時

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