検索窓
今日:1 hit、昨日:31 hit、合計:122,337 hit

三頁目 ページ4

「お客様にお引き取り頂いて頂戴。」

「あぁ、良いところだったのになぁ。まあ目立つと怒られちゃうし…また今度来るよ」

彼は意外にもあっさりと、禿達に促される前に、自分から帰り仕度を始めた。

私はすぐに彼へ背を向けて、別れの挨拶の一言もかけない。

「怪我、早く治るといいねぇ。」

出て行く直前、彼が言ったその一言に、背筋が少し凍るかと思った。


怪我のことも、名前のことも、誰にも言わず隠して来た。
なのになぜ、あの客は知っていたんだろう。

気持ちが悪い。
気味が悪い。

胸に残る厭な思いを吐き出すように、私は懐から出した煙管を、思い切り吸い込んだ。






______





翌日。

部屋に運ばれてきた朝食を一通り口にすると、私は昼見世の身支度を始めた。

機械時計を見れば、時刻はもう午後前だ。
この時計も馴染み客からの贈り物ではあるけれど。

目の前に並べた飾り物を眺める。

…真珠を施した鹿の子留めは、随分前に使ってしまった。チリカンは今じゃ芸者達の流行り物だし、この紅色の花簪は…潤朱花魁の色と被ってしまう。

“銀曇花魁”の名に寄せ、私は銀製の両天簪と、銀葵簪を手に取った。

葵簪は流行り物じゃないけど、両天簪は若い娘の間では、最近熱が上がっている品だ。

完璧に着付けた髪と、着物。
鏡と向かって、細部まで整える。

「銀曇さん、そろそろよ〜」

下から弁柄花魁の声が聞こえてきた。





私はなるべく急ぎ足で、昼見世を行う階下まで降りて行った。

「銀曇花魁よ…」「昨日の…」「年季明けも早いでしょうね…」

すると心なしか、昼見世に出ている遊女達がどよめく。

私はその様子に首を傾げ、花魁の座る場所へと移動する。

「ねえ、弁柄さん。これは一体…」

「あなた、凄い騒ぎになってるよ!この遊郭一番の客を取った、って!」

「ああ、昨夜の…」

「ちょっと、これって凄い事なのよ!?羨ましいわぁ。もし例の客を取り続けられれば、あんたそのうち潤朱さんも超えて、きっとここで一番の花魁になれるわよ。」

弁柄花魁はそう言って、私より少し離れた場所に座る、潤朱花魁の方に視線を向けた。

“一番の花魁”その言葉に、私は高鳴る胸を押さえた。

あの客は確かに変だった。
でも、もっと酷い客を取ったこともある…

私は無理矢理自分を納得させ始めた。

あの彼は、もう一度来るだろうか。

四頁目→←二頁目



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.9/10 (280 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
500人がお気に入り
設定タグ:鬼滅の刃 , 童磨 , 花魁
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

ミョンヒ - 怖いけど見事なゴジックロマンで、素晴らしいです。とんでもない相手に魅せられてしまった、危なさがよく出ておりますね! (2021年10月24日 21時) (レス) @page14 id: 8a4f993d4c (このIDを非表示/違反報告)
るい(プロフ) - おもしろいです!続き待ってますT_T (2021年7月15日 8時) (レス) id: 4cd171caaf (このIDを非表示/違反報告)
pooky - とても面白いです!頑張ってくださいね! (2021年3月7日 16時) (レス) id: 012e567f90 (このIDを非表示/違反報告)
やっぽ - はじめまして!この作品を何度も読み返してしまうくらい好きです!更新待ってます!! (2020年1月5日 12時) (レス) id: dfe50726da (このIDを非表示/違反報告)
ツナ缶 - 夜月さん» 感想ありがとうございます!恐らくお察しの通りです(色々と)笑 (2019年12月6日 0時) (レス) id: 837e8cc148 (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:ツナ缶 | 作成日時:2019年11月8日 22時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。