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拾壱頁目 ページ12

“Aへ”

文を出すのが遅れてすまないな。
病が進んで、医者にも匙を投げられてしまっているんだ。
有り金を使って買った新薬も効かなかった。
…でもA、俺は最近とても素晴らしい人と会ったよ。



「銀爾さん…」

裏を返してみれば、文には薄っすら血染みのようなものが付いている。
きっと“彼”が、血を吐いた跡。
病状がそんなに悪化しているのかしら…


銀爾さん。


彼は私の初恋の人で、私が、今も愛している人。
同郷だった彼と私は、いつも一緒だった。

私の源氏名が“銀曇”なのも、彼の名前の字が入っているからだ。

でも彼の家には、お金が無い。

だから私がこの遊郭に売られてからも、こうして文通をしているだけ。
それでも、数ヶ月に一度こうして送られてくる文に、私は胸を高鳴らせる。

文にはまだ、続きがあった。



その人は人間とは思えないくらい、綺麗な目の色と髪をしているんだ。
俺の身の上話にも、涙を流して聞いてくれた。
とても優しい人だよ。



私は少し、眉根を寄せる。
その人は一体誰なんだろう。文の様子だと、銀爾さんはかなりその人に心酔しているみたいだ。
…女の人なのかしら。

けれど文は、その後当たり障りのない事を書かれ、締め括られていた。

胸に少し、わかだまりができたような感覚。

彼が心酔してしまうような人が気になる。
それより、病気はどうなんだろう。

ふと、髪に飾ってある龍雲柄の簪に手を伸ばす。

あの簪は、銀爾さんが私の為に買ってくれた、値は張らないけど、それでも大切な物だ。
だからとても気に入っている。

「…ない?」

けれど、ない。
あの大切な簪が、ない。

私は焦って、すぐに鏡台の方に駆け寄った。

鏡に映る自分の姿よく見る。

確かに、龍雲柄をしていた簪がなくなっている。

どうして?
ずっと私の髪に飾っているから、盗みようもないはず。

動き回りもしないから、失くしもしない。
なら、何で簪は無くなっているというの……

私はここ最近の出来事を少しずつ思い返す。

今日の朝、昨日の夜、一昨日の朝………

そこで一つ、思い当たる事があった。


童磨様。

彼だけだ、私の髪に触れたのは。
私に錨草の簪を飾った、彼だけ。


…でも童磨様を疑うなんて、なんて事を。
あんな大金を持つ彼が、盗みなんて働く道理がない。

ではなぜ……






その時、荒々しい足音と共に、私の部屋の襖が開けられた。

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ミョンヒ - 怖いけど見事なゴジックロマンで、素晴らしいです。とんでもない相手に魅せられてしまった、危なさがよく出ておりますね! (2021年10月24日 21時) (レス) @page14 id: 8a4f993d4c (このIDを非表示/違反報告)
るい(プロフ) - おもしろいです!続き待ってますT_T (2021年7月15日 8時) (レス) id: 4cd171caaf (このIDを非表示/違反報告)
pooky - とても面白いです!頑張ってくださいね! (2021年3月7日 16時) (レス) id: 012e567f90 (このIDを非表示/違反報告)
やっぽ - はじめまして!この作品を何度も読み返してしまうくらい好きです!更新待ってます!! (2020年1月5日 12時) (レス) id: dfe50726da (このIDを非表示/違反報告)
ツナ缶 - 夜月さん» 感想ありがとうございます!恐らくお察しの通りです(色々と)笑 (2019年12月6日 0時) (レス) id: 837e8cc148 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:ツナ缶 | 作成日時:2019年11月8日 22時

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