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その日は、ちょっとした騒ぎが起こっていた。
昼下がり。
丁度私が、自室で馴染みの客への手紙を書いていたところに、お抱えの禿の一人が少し焦った様子で飛び込んで来た。
「あら、どうしたの。そんなに焦ったような顔をして。私の昼見世はまだ少し後のはずよ。」
「普通の…三倍以上の値で、今夜銀曇様をご指名された方が…」
「…三倍の値、ね…」
花魁と一夜を過ごす為に必要な金は、容易く普通の人を破産に追い込める額だ。
だから私の客である官僚や富豪でも、そう気軽には毎日花魁に会いに来れない。
とはいえその莫大な金額は、私の借金に全て消えてしまうんだけれど…
その三倍の値を出す、なんて正気とは思えない。
「その人は一体…」
そう言いかけて、私はすぐに止める。
花魁と親しくなる為には、最低でも三回逢瀬を重ねなければいけない。
一度目は初回。二度目は裏。三度目は馴染み。
と、こうしてようやく馴染み客になれる、というのが遊郭のしきたり。
今日の夜の客は“初回”。
私は客に話しかけたり、目を合わせてはならないのだ。
でも本当に、どんな客なんだろう。
＿＿＿＿＿＿＿
もうすぐ、あの客が来る。
薄暗く灯された燈が、ユラユラと部屋の中を照らす。
禿達が豪華に結わえてくれた髪に付けられた鼈甲の簪や、銀鈎の櫛、瑪瑙の玉簪が、ほのかな灯りを受けて少し煌めく。
私の向かいに用意してある酒台には、まだ誰も座っていない。
「失礼するよ、銀曇花魁。」
しかし、一言かけて、その客は入ってきた。
通常の三倍の金を出して、私を買った男だ。
一体どんな男なのだろう。
声をかけてはいけないけれど、私はチラリと男の方を見る。
「やあやあ、俺は童磨。どうぞお見知り置きを。」
血を被ったかの様な白橡の長髪に、油灯を受けて虹色にも見える大きな瞳。
口元には屈託無い笑みを浮かべ、同じく血のように赤い着物は、緩く着流している。
顔は恐ろしい程端麗だけど、一見して分かる遊び人だ。
政治家は、この若さでそれはありえない。
どこかの富豪の息子か…
とにかくこの客は童磨、と言うらしい。
でも普通、この機会に笑っていられる客はいないのに。
相当な変わり者だ。
童磨…彼は私が注いだ酒をすぐに飲み干すと、袂から取り出した扇で、顔をあおぎ始めた。
そして少し目を細めて、また笑う。
「前の昼見世でも美味そうな女の子だと思ったけど…今食べるには勿体ないかなぁ？次にしようかなぁ？
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ミョンヒ - 怖いけど見事なゴジックロマンで、素晴らしいです。とんでもない相手に魅せられてしまった、危なさがよく出ておりますね！ (2021年10月24日 21時) (
レス) @page14 id: 8a4f993d4c (このIDを非表示/違反報告)
るい(プロフ) - おもしろいです！続き待ってますT_T (2021年7月15日 8時) (レス) id: 4cd171caaf (このIDを非表示/違反報告)
pooky - とても面白いです！頑張ってくださいね！ (2021年3月7日 16時) (レス) id: 012e567f90 (このIDを非表示/違反報告)
やっぽ - はじめまして！この作品を何度も読み返してしまうくらい好きです！更新待ってます！！ (2020年1月5日 12時) (レス) id: dfe50726da (このIDを非表示/違反報告)
ツナ缶 - 夜月さん» 感想ありがとうございます！恐らくお察しの通りです(色々と)笑 (2019年12月6日 0時) (レス) id: 837e8cc148 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：ツナ缶 | 作成日時：2019年11月8日 22時
