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スパイク ページ39

昼休憩のあと、1回目の休憩時間。


人のいなくなったコートに、シャツの袖を捲った彼女が走って飛び込んだ。

落ちていたボールを適当に広い、2、3度床に打ち付ける。


俺は彼女が何をするのかなんとなく気になって、銀と話しながらちらちらと彼女を見ていた。



バシ、と小気味のいい音を立てて弾んだボールは、そのままAの手元を離れ、ネット際の空中に大きく飛び上がった。


と、


「……は?」


その高く上がったボールが、次の瞬間、大きな音を立てて床に叩き付けられる。



ドゴン、



大きな音が、体育館に反響した。



……今、何が起きた?


彼女が、及川Aが、スパイクを、打った?


いや、でも。

女子の打つスパイクの音じゃない。絶対。

強すぎる。



ぽかんと口を開けて呆れる俺たちは気にも留めずに、彼女はコートの真ん中でスカートを抑えてはにかみ笑いを浮かべた。


「…スカートなの、忘れてた」


いや、それじゃないでしょ、


なに、なんで打てるの?




しかもこれ、男子用のネットの高さなんだけど。

女子なら、ネット越えるように打つので精一杯なはずなんだけど。



「…な、んで…」


「はあぁぁぁぁぁ?!」


小さな俺の呟きは、大きな声に掻き消された。

叫び声の主は侑。


ずかずかとコートに入り、彼女に近付く。


「なんっっやねん、急に!」

「んー、飛んでるボールみたらつい…」


てへ、と頭を掻いた彼女がへらりと笑う。


流石の北さんもこれには相当びっくりしたようで、ドリンクの入ったボトルを持ったまま硬直していた。

北さん驚かせるなんて相当だよ。


銀に至ってはさっきからずっと、金魚みたいに口をぱくぱくさせてる。

めちゃくちゃ驚いたらしい。


「いや〜、どうしても避けてたけどやっぱり気持ちいいねぇ、スパイク」


その細い腕をぐるぐる回しながら、また他のボールを拾う。

そのまま、ボールを持った右手の人差し指を、ビシ、と侑に向けた。


「侑」

「なんや」

「トス上げてみてよ」


軽い調子でそう言った彼女が、無邪気に笑う。


「おっしゃ、任せろ」


侑はネット際に立って、彼女に視線を送る。


彼女が、侑の頭上にふわりとボールを投げた。

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作者名:えのきのこ | 作成日時:2019年5月21日 19時

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