死にぞこないの死にたがり【宮侑】 (ページ28)

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惹かれるページ28

俺の腕の中でにこりと笑って目を閉じたAは、それから１分と経たないうちに、深い眠りに落ちていった。

彼女が穏やかな寝息をたてているのを確認してから、そっと布団を被せる。

暑いかな。ま、ええか。

暑そうやったら退けてやればええ。

壁にかけてある小さな時計の針は７時すぎを指していた。

今頃、治はちょうど部活が終わって学校を出る頃だろう。

今日は何したんやろか。

試合近いし、ゲームかなぁ。

もしそうやったら惜しいことしたな、あとで治に訊こう。

そろそろ帰らないと、母親に心配される。

男二人なので割と雑に扱われてはきたものの、帰るのが遅くなったりすると心配して何回も何回も電話をかけてくるような母親だ。

このまま帰らなければ、多分、後々面倒臭い。

もう少しこのままでいたい、そんな気持ちをぐっと抑えて立ち上がろうとした。

「…んん、」

が、横のAがもそりと動く。

くるりと寝返りをうったその体が、すっぽり俺の腕の中に収まった。

立ち上がろうにも身動きのとれない状態。

仕方なく、起こしかけた体をまた布団に横たえる。

瞬間、疲労が一気に押し寄せてきた。

疲れた。

ぼんやりした頭で、ぼんやり彼女の端正な寝顔を眺める。

少しあどけなさを残したその顔はやっぱりいつ見ても綺麗で、儚くて。

彼女の抱えるものをひとつも背負ってやれない自分が、なにも理解してやれない自分が、どうしようもなく憎たらしい。

さっき、俺がスーパーから帰ったとき。

Aはめっちゃ苦しそうな顔をしていて、ほんの少しだけ泣いていた。

それについて何も触れなかったのは、優しさなんかじゃなくて、怖くて訊けなかっただけだ。

Aに半強制的に床ドンさせられた時は、Aの肌が触れる柔らかい感覚に、不覚にもめちゃくちゃドキドキして、バレてないかずっと気にしていた。

もしかしたら、バレてたかも。

現にこうして寝ていても、頭に浮かんでくるのはAのことばかり。

関われば関わるほど、この不思議な少女に惹かれていく。

子供のような寝顔を眺めているうちに、俺の意識はぷつりと途切れた。